柔らかな刃物はよく刺さる.




「手、いつまで繋いでるつもり?」

「はぐれるといけない。」

「はぐれないよ。それに赤司は視野が広いでしょ、私はこんな目立つ格好してる。」

暗に離してほしいと伝えるけれど、赤司はお構いなしといったような感じだ。

「恋人同士が手を繋ぐのに、理由なんて要らなかったな。俺がこうしたいからする。」

「っ、な、なにそれ…!ってか、赤司は来賓の人とかとお家での繋がりもあるんでしょ。こんな軽率なことしたら、」

慌てる私に、赤司は呆れたように笑う。

「…せいぜい、次会った時にニヤつかれるだけさ。オレは中学生らしさが足りないようだから、逆に青春だとかなんとか言って好感を持たれるだろうね。」

しっかり打算もあった訳だ。
そんな狡猾な赤司の手をまじまじと見る。
思ったより大きい。
白くて、爪の形が細長い女性的な要素がある一方で、血管が浮く手の甲と、骨ばった指は男らしさを感じさせる。細部まで隙がないな。そう思うくらいに、綺麗な手だ。

「ミョウジ、聞いてる?」

「え、あ…なんだっけ?」

赤司の手を見ているうちに、話を聞き逃していたらしい。
尋ね返すと、どこか行きたいところはあるのかという問いだった。友人の所には行きたいと思っているけれど、確かクレープ屋だった。まだお腹の空き具合もイマイチだし他に…と目線を彷徨わせていると、ある看板が目に入った。

「あれは?」

「あれ…あぁ、将棋部か。」

「赤司、好きって言ってたし。ほら、あの看板結構力入ってない?」

「飛車よりも香車の方がわかりやすいと思うけれど、出来栄えは悪くないね。」

大駒の形に、飛車の文字。真っ直ぐ進んだ所に将棋部の出し物があったはずだ。

「うん、行こうか。」

将棋部の教室に入った途端、ピリッとした空気が漂った。赤司だ…会長だ…というヒソヒソ声が聞こえたと思ったら、教室後方でじゃんけん大会が始まる。

「盛り上がってるところ悪いが、俺では無くミョウジと指してもらえるかい?」

「「「えっ!!」」」

驚いたのは将棋部の面々だけではない。私もだ。

「ミョウジが指しているところを見てみたいんだ。指し方はわかるだろう?」

「わかるけど…」

赤司が椅子を引いてくれて、座るように促した。
向かいには将棋部の部長…肥後橋君が座る。先手は私に譲ってくれた。互いに礼をして、歩を動かす。
パチ、と小さく響く音と静かな空間は、文化祭らしくない。後ろからの赤司の視線も相まって、緊張感が走った。

「…これ、まだ詰んでない?」

「見事に駒が取られてるけれど、まだ手はあるよ。」

すっかり味方の減った盤の上を見て、どうしたものか…と頭を抱えていると、赤司がそれは愉快そうに笑った。

「そうだな。このまま指しても面白いが…どうだ部長、ここから俺が変わってもいいかい?」

「ごめんね、肥後橋君。私弱くて…」

「いえいえ、赤司君がいいのなら構いませんが…」

そこからの快進撃はすごかった。
次々に味方を取り戻し、確実に玉が逃げられる場所を消していく。
自分の詰みが見えたのか、肥後橋君は悔しそうに降参した。
感想戦を求められていたが、赤司は後日にと躱していた。

「ミョウジは、思い切りが良すぎるところがあるね。」

「将棋の話?」

「あぁ。自棄になって、大事なものを簡単に手放したらいけないよ。」

「耳が痛いなー…」

少しおどけてみせた私を、赤司の瞳が静かに捉えた。
あぁ、やっぱり、苦手だ。

「…相手に敵わないなと思ったら、諦めたくもなるよ。」

赤司が、私の手に触れた。そのまま優しく包み込まれて、手の震えが和らぐ。

「その言葉は、ミョウジには似合わない。」

赤司は、それだけを言って歩き出した。
手を引かれているから、赤司の顔は見えない。見えなくてよかったかもしれない。今の私は情けない顔をしている自覚がある。

赤司は、どこまでわかってるんだろう。
私が付き合いたいと言った理由も、さっき言った言葉の意味も、わかっているのかもしれない。






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