あなたの重さを分かちたい.




今日は、バスケ部はオフらしい。自主練はしないのかと尋ねると、定演や発表会が近い文化部が体育館を使う日らしく、できないとのこと。
放課後に赤司が生徒会室にいることは珍しい。後輩達は、どことなく嬉しそうだった。

「会長、帝光祭での予算案なんですけど…」

「すみません、生徒総会の冊子って…」

質問されても難なく答える赤司は、やっぱり完璧だ。
だけど後輩に囲まれていては、気疲れしてしまうんじゃ…いや、全くそんな素振りは見えない。
まぁ、どちらにせよ赤司の仕事が進まないのは確かだ。

「そこまで。ほら、会長の仕事が進まないでしょ。どうしても会長じゃなきゃ駄目なやつ以外は私に聞いて。会長ほど上手じゃないけど教えれると思うから、ね?」

後輩達は渋々といった様子で、自分の席に戻っていった。
私は、何個か来た質問に答えながら、赤司を横目で見た。赤司は、軽く伸びをして書類に手をつけた。そして不意に目線を上げて私に向けて、口パクで何かを呟く。「あ、り、が、と、う」…?
小さく会釈をすると、赤司は満足気だったから、間違えはないと思う。

ーー「赤司君の、どこが好きですか?」そんな黒子の言葉が浮かんだ。小さなことにも礼を欠かさないところは、好きかもしれない。



ーーーーー



仕事をひと段落させた人から帰っていき、生徒会室には私と赤司の二人きりとなった。
赤司の手には、まだ書類がある。
後輩がやったものをチェックしているからか、その枚数は赤司が来た時よりも多い。

あらかた自分の仕事は片付いた。帰ろうとしても、赤司は快く了承してくれる。けれど、先に帰ってしまおうとは思えなかった。

「赤司、私が出来るのはある?」

「…あぁ、あと少しで終わりそうだから、問題ないよ。」

文字の羅列を追う赤司の瞳と、私の瞳は交わらない。それに苛ついて、私は赤司の手にある書類を抜き取った。

「どうかした?」

「どうかした?じゃない。抱えてる量が多いから、分担しようって言ってるの。赤司の能力が高いのは知ってるけど、分担した方が早く終わるし、負担が減るじゃん。」

「…負担、」

「赤司ならこんなの負担じゃないって思うのかもしれない。でも、小さなものだって、重さがあれば負荷になるのは……き、筋トレでも一緒!」

筋トレとかほとんどしないからわかんないけど!!

「ふ、ミョウジらしくない例えだ。」

「わかってるから言わないで…」

「筋トレというのは、俺に合わせてくれたのかな?」

「わ、忘れてってば!」

赤司は小さく笑って、言った。

「すまない、頼めるか?」

他の誰かから頼られるのとは全く違う、優越感を感じた。それを飲み込むように頷く。
頼み事一つでこんな気持ちにさせるのは、赤司にしかできないことだ。そんな唯一無二の完璧さが、憎らしく感じるほどに憧れる。

「ミョウジは、俺のことを完璧だと思っているかもしれないけれど、」

考えていたことを読まれたのかと思った。
赤司の瞳が、私の方を向いている。相変わらず見透かされているようで、苦手だ。落ち着かない気持ちを紛らわせるために、両手を重ねた。黒子の言う通りの仕草が、自然と出てしまって、はっとする。

「俺に欠けているものを、ミョウジが持ってる気がしてならないよ。」

赤司に欠けているものなんてあるんだろうか。
ましてや、それを私が持ってるだなんてーー。

「だから完璧なところ以外で、好きなところを見つけてほしい。」

「…図書室の、聞いてたの?」

「偶々耳に入ったんだ。」

クスクスと余裕そうに笑うこの顔は、すでに一つ、好きかもしれないと思ったところがあると言えば、どんな顔をするのか。すごく気になる一方で、それを言うのを躊躇う気持ちの方がずっと強い。私に言えたのは、盗み聞きは良く無いという、ありきたりな返事だけだった。






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