傍らにブックエンド.




帝光の図書館は、結構充実していると思う。

入学前の学校見学で気に入ってから、通い詰めているうちに、司書さんにも覚えられるくらいの常連になってしまった。いつも私が座るカウンターのすぐ近くの窓際にある席は、特等席となっているのか、あまり他の人が座っているのを見たことがない。

今日も特等席に座って本を巡っていると、ページの上に影が差した。
明度の変化に、窓の方へと目を向けると、そこには見知った顔があった。

「ミョウジさん、読書中すみません。」

「あ、黒子。あれ、今日は委員の日じゃないよね?」
「新刊が入る日なので。」

黒子とは、図書室に通う中で知り合った。図書委員の彼は、私の貸し出しリストが自分の読書傾向と似通っているのが気になってたらしい。初めて声をかけられた時にはその存在感の薄さに驚いたが、今では本をおすすめし合うくらいの仲だ。

黒子は、私の隣の椅子を引いて腰掛けた。
その姿を確認して、ページをめくろうとすると、ミョウジさんは…と黒子が呟いた。話を続けるつもりらしい。
幸い今日の図書室は空いている。多少の私語ならグラウンドの喧騒に紛れて、許されそうだ。

「赤司君とお付き合いされてるんですよね。」

本を読んでいる時に、黒子が話しかけてくるのは珍しい。やっぱり、聞きたいのは赤司のことか…。

「…まぁ、そうだね。」

「意外でした。」

「そうだろうね。まさか赤司サマの彼女が、こんな平凡な私だもん。」

赤司は、中学に入ってから何度告白されても頷かなかったらしい。だから、赤司は相当理想が高いのだろうと噂されていた。私も、まさか告白に対する返事がYESだとは思わなかった。

「いえ、ミョウジさんが赤司君を好きだというのが意外でした。どちらかといえば、ミョウジさんは赤司君のことを苦手なのかなと感じていたので。」

黒子の言葉に、ドキッとした。
私は、赤司に対して普通に接しているはずで。どこにそう思うところがあったんだろう。

「どうして?」

「仕草、ですかね。赤司君と居る時、ミョウジさんは自分の腕をさすったり、手を体の前で組むことが多いように思っていて。これらは、心理学では警戒をしている時に現れやすいとされています。」

人を見る目に長けている黒子だ。確かに赤司と居る時には、手元が落ち着かない。つい、手を動かしてしまうのは自覚があった。

「…赤司は、威圧感があるというか、緊張感を与える雰囲気があるから。多分、そのせいだよ。」

「その可能性もありますね。赤司君は基本的には温厚な人ですが、自他ともに厳しいところがありますから。」

黒子がふふ、と笑いながら言う。
赤司のことをこんな風に評価して笑える人はきっと少ない。チームメイトとして信頼関係があるからできることだろうなと思った。

「私よりも、赤司が私と付き合おうっていう気になったことの方が意外じゃない?」

「そうですか?それは、僕にとってそれほど気にかかることではなかったです。」

黒子は、よくわからない。赤司の考えることも大概謎だけれど、黒子も同じくらいだ。
まぁ、バスケ部は変人が集まってるか…。

「赤司君の、どこが好きですか?」

「っごほ…!く、黒子もそういうの聞くんだね…!」

「気になります。」

予想外の質問に、思わずむせてしまった。
赤司の好きな所、少し考えを巡らせてみる。いや、巡らせて無くてもすぐに浮かぶところが一つだけあった。

「…完璧なところ。赤司の完璧さは憧れで、憎らしいくらいだよ。」

黒子は面白くなさそうに、そうですか…と呟いた。
聞いてきたのはそっちなのに。期待に添えなくてごめんね、と思いながら、私は再びページに視線を戻した。






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