わかりにくい優しさのカケラ.




「副会長、会長と付き合ってるってほんとですか?」

「赤司君とミョウジさん付き合い始めたらしいって聞いたけど、いつから!?」

赤司が私の告白を承諾した翌日には、そのことが周知されていた。このことを知っているのは、当事者である私と赤司しか居ない。つまり、赤司の仕業だということ。

「なんでこんなに広まってるの!?」

「俺が言ったからだろうな。」

「聞きたいのはそういうことじゃない…」

生徒会室のドアを勢いよく開いて赤司に詰め寄る。けれど、赤司は意にも介さず、達筆な字で付箋に文字を綴っていた。
昼休みにも関わらず、赤司は生徒会の仕事をこなす。二日に一度はバスケ部のレギュラー陣と昼食を取っているらしいが、食べ終わったら大体生徒会室にいる。放課後に出られない分の仕事を片付けてしまいたいらしい。

「放課後の定例会だが、今日も司会を任せていいか。会計の仕事があまり進んでいないようだから、進度の確認とフォローを頼みたい。」

「もうやってる。部費の集計まではできてるから、あとはデータ化して、次の生徒総会には間に合うと思う。」

「流石だな、助かるよ。」

やっと赤司と目が合った。
赤司が急に立ち上がるものだから、距離が近くなる。
赤司はあまり背が高くない。私との身長差はそう大きなものではないのに、纏う雰囲気のせいか堂々としている。そのせいで思わずたじろぎそうになった。

「…な、なによ。」

「俺も、彼女ができたことに浮かれて周りに言ってしまうことくらいあるよ。」

絶対嘘。そんな可愛らしいところが、赤司にあるはずがない。

「う、うそつき、」

「心外だな。でも、ミョウジが気分を害したなら謝ろう。」

すまない、と頭を下げた赤司に、私はどうしていいかわからなくなった。ただ、謝罪なんか要らないと可愛くない言い方でつっかかってしまう。

「どうしたら、機嫌を直してくれる?」

「…そういうのは、自分で考えるものだよ。」

「じゃあ、俺にチャンスをくれないか。今日から一緒に帰ろう。その間にミョウジの機嫌をとる方法を見つける。」

一緒に帰るって、バスケ部が終わるのは夜の8時過ぎだ。そんな時間まで待ってられない。

「遅くなるから、」

「ミョウジも、完全下校ギリギリまで生徒会室にいるだろう。体育館からここの灯りはよく見えるんだ。暗くなっては危ないから、送らせてほしい。」

駄目かな?と聞く赤司の態度は、下手に出ている言葉とは裏腹に高圧的だ。これ以上断り文句が浮かばない私は、渋々承諾せざるを得なかった。

ーーーー

「待たせてすまない。」

「こっちも終わったばかりだから大丈夫。」

机上を片付けてバッグを持ち、ドアの前で待つ赤司の元へ向かう。
戸締まりを…と思ったところで、赤司が部屋の中に入り、ドアを閉めた。

「なに?」

「いや、失礼。」

赤司が、私の頬に触れた。
あまりに突然のことだった。赤司の指は、思ったよりも硬い。バスケをしていることと関係があるんだろうか。
すり、と下瞼のあたりに親指が掠める。

「隈が気になる。ちゃんと寝てるか?」

「…寝てる。」

「嘘が下手だね。睡眠は削らないほうがいい。それから…触れたのは俺だが、もう少し警戒心を持った方がいいな。あと少し俺の好奇心が強かったら、」

「強かったら?」

「…答えを簡単にあげるほど、俺は優しく無いよ。」

赤司に促されて、生徒会室を後にした。
赤司の家は私とは別の方向だが、送ると言って聞かないから、渋々折れるしかなかった。

「ミョウジと、生徒会室を離れて話すのは初めてかもしれないな。友人とは普段どんな話をするんだい?」

「どんな話って…流行りの音楽とか、テレビとか。たわいもない話をするくらいだよ。」

「俺があまり明るくないものだな。流行りの音楽か…ミョウジが好きなものがあったら教えてほしいな。テレビよりかはとっつきやすい気がする。」

いくつか気に入っているものを挙げると、赤司はひとつひとつに丁寧に相槌を打つ。
雑談なんて、聞き流すようなものなのに。赤司の生真面目さはここでも発揮されるのかと、呆れてしまう。

「赤司は、」

「どうした?」

「…なんか、好きなものとかある?趣味とか。」

私ばかり話しているのもどうかと思って、話を振ってみる。赤司は顎に手を当てて、少し考える素振りをした。

「バスケは、頭脳と技術両方必要な所があって面白いよ。趣味としては…ボードゲームかな。特に将棋は好きだね。」

「将棋…」

「あまり好きではない?」

「駒の動かし方はわかるけど…勝てたこと無い。」

「へぇ、それは気になるな。近いうちに射してみようか。」

くすくすと笑う赤司に、私の連敗記録が更新される気配がした。
家の前に着いて別れてから、なんとなく振り返って見ると。赤司の背中が、思っていたよりもずっと遠くにあることに驚いた。
そこで、歩調を合わせてくれていたのだと言うことに気がついた私は、次があるならばもっと速く歩こうと心に決めた。






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