黒と白.
あの日から、元からマメでは無い大地からの連絡は途絶えた。 クラスも違うし、教室に篭っていれば会うことも無い。距離を置くと言ったのは大地だから、私に会いにくることもない。
やっぱり振られたんだろうな、と改めて思ったのは、そんな状態が続いて3ヶ月した頃だった。
季節はすっかり変わって、一学期も終わろうとしている。誰かのSNS越しに見る大地は、私と付き合ってたことなんて無かったみたいだ。笑っている大地を見て、少しくらい不幸になればいいと思う私は本当に心が汚い。
「名字、澤村と別れたってマジ?」
家に帰っても1人じゃエアコンをつけるのが勿体ないからと、放課後の暇つぶしをしていた図書館で声をかけられた。
「…みたいだね、何?そんなこと一々言ってくるってことは、良い人紹介してくれるの?」
「俺とか?」
図書室が似合わない男子だな、という印象のクラスメイト。高橋くん。確か、部活を引退して暇だと言っていた。 暇つぶしに私に声をかけてきたんだろうと思うくらいの軽薄さは、なんだか好ましく思える。大地と正反対でいいかも、なんて。
「チャラいね、バスケ部って皆そうなの?」
「いや結構まじめに名字のこといいなって思ってるから!」
嘘つき。 私への欲なんて性欲くらいでしょ、と思ったけれど、逆にそっちの方がいいかもしれない。
「…付き合ってみる?」
「え、うそ!やった!」
言ってから、居心地の悪さを感じた。 罪悪感のようなそれは、大地のせいだ。はっきりと別れたいと言ってくれた方が楽だった。そしたらこんな気持ちも抱えずに済んだのに。
「やっぱり、もうちょっと考えさせて。あんまり話したことないし、連絡先とか交換してさ。出掛けたりとか…」
早口で言う私に、高橋くんは爆笑した。 動揺してるのが伝わってしまったんだろう。むせるように笑われて、恥ずかしい。
「いいよ、名字の真面目なとこ好きだし。…今度の夏祭り一緒に行くとこからどう?」
ーー名前の真面目なところ、俺は好きだよ。
あぁ、やだな。大地が言ってくれたことを思い出してしまう時点で、次の恋に向かおうとする私の足はつまずいているような気がする。 それでも進まなきゃ、大地を忘れられない。 眩しい光を見た後、瞳を閉じても網膜に残るように、大地は、中々消えてくれない。
「夏祭り行こう。二人で!」
「おうっ、浴衣着てきてな!楽しみにしてっから!」
夏に期待して新調した浴衣は、黒地にオレンジと白の色の線香花火の柄が広がるものだった。色の組み合わせは、大地のユニホーム姿を思い出させるもの。 今年の夏には出番がなくってしまったな、と思う。 ?橋くんとの夏祭りでは、前の浴衣を着て行こう。白地にやわらかな花柄の浴衣。
「白い浴衣、かわいめのやつあるんだ。着ていくね。」
「白!いいじゃん!」
マジで楽しみだわー…と言ってくれる高橋くんは、私の面倒くさい事情なんて知らない。 楽しみにしてくれるなら、白で行こう。白の方が、夜に映えるだろうし…なんて思いながらも、黒い浴衣を着たかったなという未練がましい気持ちは拭えなかった。
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