君のことが知りたい.




名字を知ったのは、高三になってからだった。
隣の席だけど、特に俺に興味がある訳でもなさそうで、あっさりした子だなという印象。
興味を持ったのは、名字がよく体育の時間に保健室へと行っているのを見かけたからだった。

ある日のサッカーの授業で転んで、擦り傷をひっさげて保健室へ。
当然のように、保健室には名字が居た。

「あれ、及川?転んだの?」

「白熱しちゃってね。」

そういえば名字っていつもどうして休んでいるんだろうと思って。

「名字ちゃんは、どうしたの?」

そう尋ねると名字は、苦笑いを浮かべた。
やばい、これ聞いちゃいけなかったやつ?もしかして女子特有のとか…あぁ俺の馬鹿!!

「運動苦手で…」

「あ、そうなんだ。」

よかった、セーフ!!

「意外、名字ちゃん運動得意そうなのに。」

「そう?全然だよ。及川は運動神経いいよね。」

「そんなことないよ、フツーフツー。」

まぁ、良い方だとは思うけど、俺より化け物じみた身体能力を持つやつは、いくらでもいる。

「フツーな人は強豪バレー部の部長とかなんないよ。及川はいつも頑張ってて偉いね。ほら、部活の自主練とかも最後まで残ってるの、たまに見かける。」

「あぁ、ありがと。」

ほんと、尊敬する。と名字ちゃんが重ねて言った。
「すごいね、かっこいいね、頑張ってて偉いね」のような言葉には慣れている。
その言葉が素直に嬉しかった時期もあるけれど、なんだか最近はうまく嵌まらない。
飛雄が高校バレーに入ってきたからかな、と未だにあの後輩を意識してしまう自分も嫌になる。

「…ごめん。」

「え?」

「ちょっとやな言い方した。」

「…なにが?」

突然、名字は頭を下げた。
あれ、俺いつも通りお礼言ったよね?

「あと、嘘ついた。私、運動得意。」

「えーっと…」

「…靭帯がね。中学まで部活やってたけど、オーバーワークでダメになっちゃって。今も運動すると痛くなるから、休みにきてるの。」

「靭帯…」

「あ、待ってそんな暗くなんないでね!今は読書にハマって毎日充実だし、」

それより、さっきの言い方やだったかもって思って…と名字は続ける。

「部活してた時、頑張ってるねって、私もいろんな人に言われた。えらいねって。でも、それは自分は出来ないなって線を引かれるように感じて、何がわかるんだって意地になった。」

カチ、と嵌るような音がした。
俺の気持ちを言語化したら、こうなるのかもしれない。

「今、言ってみてわかったなぁ。皆純粋な気持ちで言ってくれてたのかもって。でも、ごめんね。」

「ううん大丈夫。むしろ、ありがとう。」

「こちらこそ。自主練してる及川見かけて、なんか嬉しかったんだよね。私、怪我する前に及川みたいな人に出会いたかったな。」

利き手の肘は、ただでさえうまく手当てができないのに、名字の直球すぎる言葉に動揺して、ガーゼを落とした。

「あ、私やるよ。肘って地味に手当てしずらいよねー」

「ありがと…」

あ、やべ、消毒出し過ぎた…とビショビショになった俺の肘に、名字は雑にガーゼを押し付ける。
手当ての仕方が男らしくてつい笑ってしまった。

「怪我するのは得意だったけど、手当てするのは何気に初なんだよ…」

カーッと赤くなった頬に、女の子だなと思う。
男の腕に触れるのは平気な癖に、変なとこに羞恥を感じるんだなとそこも可笑しくて、でも可愛くて。
名字のことをもっと知りたいと思ったんだ。






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