どうしても.
「名字さんだっけ。ちょっといい?」
話したいことがあると、めちゃくちゃ可愛い子に廊下で声をかけられて、私はドギマギしながら了承した。
少し気が強そうな、美人。でも、可愛いさもあって…及川で見慣れてたけど、やっぱりこの高校は顔面偏差値が高い気がする。 華奢な背中に連れ従って、人気のない茶道室の前まで来た。
「えっと、それで話って?」
「名字さんって徹と付き合ってんの?」
徹…?あっ、及川か!!
「え!?いやいやいや、付き合ってないです!!」
びっくりして、つい声が大きくなってしまう。彼女も私の声に、声でか、と呟くくらいには。
「じゃあ、昨日手繋いで帰ってたのは?」
「それは…えっと、その…」
口籠る私に、彼女は少し距離を詰めた。 上目遣いで表情を伺われて、あまりの可愛さにぐらりとくる。
「徹に、告白でもされた?」
「なんでそれを…!?」
「鎌かけただけ…ってか、名字さんチョロすぎるでしょ。」
そんな、ため息をつかれる程…? 鎌かけられてすぐにひっかかってしまったけれど、普段はそんなにチョロくはないはず。
「私、徹の元カノなんだよね。」
「はぁ…?」
あぁ、そういえば!及川がめっちゃ可愛い子連れてた時あった!! この子だったんだ…!
「…振られたけど。」
「えっ!こんな美人を!?」
「ふはっ、…ねぇ、空気よんで?笑っちゃったじゃん。」
美人って言われるのは嬉しいありがとう、と彼女が続ける。ふはって笑い方さえも可愛い。ギャップっていうのかな、やばい。かわいい。
「それで、本題なんだけど…」
髪を耳にかけて、彼女が本題に入るのを待った。
「徹が海外にいくの、知ってる?」
「海外…?旅行にでも行くの?」
ただの海外旅行、なら彼女はこんな改まって話をするために私を呼び出す訳が無いのは、わかっていた。 なのに聞いてしまったのは、告げられた事実をうまく咀嚼できなかったから。
「卒業したら、バレーをするために海外に行くんだって。聞いてるのかなって。」
「…いや、聞いてない。」
「まだ、ちょっと考えてるだけ…って感じだったけど、徹ならそうするんだろうってわかるもん。私は、これ聞いて…付き合ってくの無理だなって思った。徹もそれを察して別れようって提案してきたし。」
彼女が懐かしむように細めた目元は、及川と似て柔らかだった。
「あ、今は未練とか全く無いよ?他に彼氏できたから!」
安心して、と言外に告げられて、ほんとに安心してしまうから、私は仕方のないやつだと思う。
「ただ、徹が海外いくこと、名字さんには言っといた方がいい気がしたんだよね。知らないまま付き合ってくのよりも、知ってた方がいいかなって…私の空回りだったらごめん。」
「ううん、ありがとう。」
お礼を口にすると、彼女は時間とらせてごめんね!と頭を下げた。可愛くて、美人で、いい子で…こんな子と付き合ってたのになんで及川は私に告白してきたんだろう。月とすっぽんもいいところだ。
「…あ、あともう一つ!徹、私を振る時ね、『どうしても好きな子ができた。』って言ってたんだけど…それ、名字さんのことだったんだね!」
やるじゃん!!と、肩を突かれて、私の顔に熱が集まる。なんで別れる時にそんなこと言っちゃうのよ、女心わかってるようでわかってないんじゃないの?…と心の中で文句を言いながらも、喜んでしまう自分がいて、困ったものだ。
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