イメージ.




最近、SNSで自分の名前を検索にかけると、意外と色々出てくるもんだと知った。
それを知って以来、ついやってしまうエゴサーチ。
『角名選手かっこいい』『リアコ不可避』…どーもありがとね…と思いながらスクロールしていく。
その中でとある呟きが目が引っ掛かった。

「絶対女慣れしてる。オトすのうまそう」
「セフレめっちゃいそう、だがそこがいい」
もっとえげつないのもあったけど、まぁ簡単に言えば俺は女慣れしていて、遊ぶのが上手いイメージがあるらしい。余裕があって、ちょっとSで…なんていうのもあって笑える。

「角名?なに見てんの?」

隣で寝転ぶ彼女が、俺の携帯を覗き込む。

「…俺のパブリックイメージ?」

「ふーん、チベットスナギツネとか?」

一糸纏わぬ…だったらいいのに。実際は隣にいる女は一糸も乱れぬ姿だ。
二週間に一回。それよりも多い時もあれば、少ない時もある。彼女とただ寝転ぶ時間。
セフレ、ならぬ所謂ソフレーー俺らは添い寝フレンドっていう関係らしい。

「スマホじゃなくて、今は私との時間やろ?」

「そーだけど…」

あんた、もうすぐ帰る時間じゃん。
彼女がいる時間は終電に間に合うまで。十二時にはいつも俺の側から離れていってしまう。
シンデレラほどの健気さも無いくせに、ムカつく。

「…俺置いて帰るの?」

起き上がろうとする彼女の腰にぎゅ、と抱きついて、小首を傾げてみる。
割とこういうのに弱いらしい彼女は、困ったように眉根を寄せた。

「付き合ってもないのに泊るのはあかんよ」

「…ッチ、」

「舌打ちもあかん」

頭を撫でられて、ごめんねと笑われれば腕を離すしか無くなる。
彼女の中のルールを破ってしまうことでこの時間が無くなってしまうのが嫌で、言うことを聞かざるを得ない。

駅近の物件に住んだのが間違えだった。
送ってく、なんて言っても、すぐ目の前の駅だから大丈夫と言われてしまう。
玄関までしか見送らせてくれない彼女に、心の中ではいつでも舌打ちだ。

背中を見送って、一人ごちる。
いつもハグまで。
隣で寝てもキス一つさえ許してもらえない、ずっと隙のない女を一途に思って女慣れなんてとんでもない、踏み込む勇気も余裕も無い男だ。

「…やっぱ、強引に行くべき?」

ーー躱されそうな予感しかしねぇわ。



苗字名前は、高校の時のマネージャーだった。
同じ学年ではあったが、部員の一人とマネージャーという、それだけの関係で3年間を過ごした。
向こうには彼氏が居たし、恋愛関係に発展する訳もなく。ただ一方的に、こいつが俺の方見ればいいのに…と思っていた。

その想いは叶わずに卒業したけど。

「角名、久しぶりやな」

久しぶりに集まろうとかなんとか言う、一つ上の先輩達主催の飲み会に参加した時に再会した。
叶わなかった想いっていうのは、叶わなかった分なんとも厄介で。

「久しぶり」

いとも簡単に、湧き上がってしまう。

「…彼氏とは続いてんの?」

隣をキープして尋ねると、苗字はつまみの唐揚げに手を伸ばしながら答えた。

「続いとるよ、遠距離やけどね。」

「ふーん…」

酒のせいで、俺も苗字も少し舞い上がったんだと思う。二人ともそんなに話すタイプでは無いのに、よく口が回るようになっていた。

「彼氏、会いにきてくれへんのよ。連絡も減っとるし、それでも記念日とかは絶対連絡くれるから何も言えんくて。好きなんやけどさぁ、寂しいんやで、こっちは!」

「寂しいって何、人肌でも恋しいの?」

「…せやけど、悪い!?」

「じゃあ、俺とかどう?人肌貸すよ、」

苗字が了承しても、拒否しても。お互い酒のせいで逃げられると思って、軽く言った。
「ふざけんのも大概にし、飲み過ぎやで?」と返されて、付け入る隙もない苗字に、どっかで安心した。

飲み会もお開きに…となった所で、最寄り駅が隣だからと苗字を送ると申し出ると。
苗字は程よく出来上がって、陽気に俺の隣を歩く。
鼻歌とか歌っちゃうんだ、あざと…とか思いつつも、ぐっときてしまう自分がいる。

「ほら苗字、駅着くよ。」

電車に乗って、そろそろ苗字の最寄りに着く頃合いで声をかけると、苗字はご機嫌な笑みを浮かべた。
全く席を立とうとせず、二人の間にはドアが閉まることを知らせるアナウンスが流れていく。

「…降りなくてよかったの?」

「俺とかどう?って言っとったやん。」

いい雰囲気に背を押され、手を繋ごうとしたら、甲を抓られる。

「そういうんとちゃうけど、隣で寝てくれる?」

「いいけど、」

小首を傾げる苗字に、まじかと浮つく足が現実のものかさえ怪しくなった。

家に着いていざベッドに倒れ込むと、苗字が震えていて。俺も思い留まることができた。
ただ、女の子から女の人になった、その背中を抱いて眠るだけでも許してもらえただけで充分だと思えた。


けれどーーその日からずるずる、ここまでただ添い寝をする関係は続いている。

そんな夜を一緒に過ごすうちに、高校の頃は知らなかったことを知った。
制服の襟で見えなかった、うなじの下の方にホクロがあることとか、思ったよりも手首が細かったこととか。
苗字には、変に人間関係に潔癖なとこがある事も知った。

人のものに手を出そうとするやつとか、すぐに切られるだろうから、好きだとかそういうのは言えない。
まぁ、半分手出したようなもんだけど…。

向こうは彼氏と別れる気も無いらしいし、俺らの間に進展も無い。

最初は、この狡い関係はぬるま湯に浸かっているように心地良かったけれど…そろそろ不毛な関係がしんどくなってきた。

「…好きだ」

さっきまで苗字が寝転んでいたベッドに、体を沈める。拘っているらしい微かな香水の香りが残っている事を嬉しく思ってしまうのが我ながらキモい。
ーー次来るのは二週間後か。
それまでこの香りが消えなければいいのに。








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