ニヤニヤ.
就職活動が始まれば、自然と角名のことを考えることは減った。
角名からの連絡は勿論ないし、私から連絡することは出来んかった。角名とのLINEのトークルームが、どんどん下の方へと行くうちに、連絡一つのハードルが上がってしまって。こうやって疎遠になっていくんやなと、諦める気持ちの方が大きくなっていった。
たまに宮達や銀のインスタで姿を見るけれど、変わった様子は無かった。それが逆に、私なんか角名にとって、ちっぽけな、遊びの相手にもなれないような存在だったと突きつけるようで痛い。
丁度、侑のインスタを見ていた時だった。 侑から着信があって、どきりとする。
「はい、もしもし…」
「苗字、今何してん」
あんたのインスタの投稿の中の角名を見てましたとは言えるわけない。 無難に、「別にー、暇してたで?」と返した。
「暇なら、飲みいかへん?治の店がオープンすんねん。来週から。ほんで、プレオープンやって、稲荷崎の地元残っとるやつに声かけてんけど。暇なら来いや。」
「どんくらい集まるん?」
「今のとこ、銀とー北さんとー、アランくんも後から来るいうてたなぁ。急やしあんま捕まらんかってん。」
角名の名前が無いことに、安堵する。 用事でもあったんか、どうでもいいけど、角名が居らんなら参加しても許されるかな。
「わかった、行くわ。お店の住所ちゃんと送ってな。」
「ほいほーい。」
就活も一区切りついた頃やし、少し息抜きに丁度ええやろ。集合時間まで時間あるみたいやし、治になんかお祝いでも買って行こかな。
ちょっと良いお酒を手に、お店の最寄りの駅に着けば、侑が迎えに来てくれた。 ど金髪に、高身長な侑は目立つ。
「ごめん、待った?」
「相変わらずあざといなぁ。今来たとこやでって言いたいとこやけど…5分は待ったわ。」
無意識に小首を傾げて、上目遣いをしてしまっていた。 角名と会う時の癖。 角名は、こうやってすると喜んでた気がしたから。
「5分は見逃してや。念願の治のお店やから気合い入れてきてん。」
「ほーん。」
「興味なさそうな返事やめ、銀ならめちゃくちゃ褒めてくれるで?苗字えらい綺麗なったわー、俺隣歩くの気が引けてまうーって。」
まぁ、侑みたいな人でなしに言うてもしゃーないか。 あ、尾白さんもめっちゃ褒めてくれる気がする。北さんは…おじいちゃん目線やもんなぁ。
「角名は?」
「は?」
「角名も褒めるんとちゃう?あいつ、ずっと苗字のこと好きやったやんけ。」
弾かれたかのように、侑の顔を見た。 何考えとるかわからんような、ポーカーフェイスは、セッターらしい。こっちを探るような目が、居心地が悪くて不自然に目線を逸らしてしまった。 侑はそんな私を鼻で笑った。
「今日、角名も来るで。」
「っ、聞いてない!!」
「言うてへんもん。詳しくは知らんけど、なんや、揉めてるらしいなぁ。角名が落ち込んでたわ。帰りは2人っきりにしたるから、ちゃんと話つけぇよ。」
今更逃げる事はできそうに無い。 駅へとUターンしようにも絶対に侑に捕まるし、治には行くと言ってしまっている。 この…詐欺師!あほ!! 私の顔がよほど面白かったのか、侑はニヤニヤとしながら、鼻歌を歌い始めた。
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