レンタル.




今日苗字は彼氏と会う日。
こっちはそれだけで萎えてんのに、朝からテレビの占いが最下位でもっと萎えた。さいあく。

練習も無くて、用事も何もない休日なせいで、退屈を持て余した頭は苗字の事を考えてしまう。
彼氏に会って、寂しさがなくなって。
お互いの気持ちが盛り上がって、冷めかけていた熱が戻ってしまって…。
俺なんか要らないと言われたら、なんて幾らでも思考は悲観的な方向へと下っていく。

「…ハァーー、どっかいくか」

とりあえず、外に出て適当に街を彷徨こう。
そうすれば気が紛れると思った。


街は昼下がりとは言え、休日でそれなりに賑わっている。
親子連れとかカップルとか。そんな雑踏から少し離れて、一人。ベンチに座りスマホをいじりながら先程買ったスタバの新作を啜る。
苗字が好きそーな味、とか考えてしまう自分にちょっとムカついた。

「あの、すみません!」

「はい、」

突然声をかけられたことに少し驚きながら振り返ると、女の人が上目遣いで俺を見つめていた。

「…どうしました?」

「えっと…一人、かなと思って。私もスタバでおんなじの買ったんですけど、席なくてここで飲もうかなって。隣、いいですか?」

「あぁ、どーぞ」

ありがとうございます!と言いながら、その人はすとん、と浅めに腰掛ける。
あざといな、どっかの誰かさんみたい。 
そういや…髪の長さとか色とか、苗字に似てる。多分、後ろ姿とかだったら見紛うくらいに。

「…なんか、ついてます?」

俺の視線が気になったのか、彼女は小首を傾げた。

「いや、何も。知り合いに似てて…って、なんか俺、ナンパみたいな事言ってんね」

ふふ、なにそれーとフワフワと彼女は笑いながら。

「…私、ちょっと逆ナンのつもりでした。」

座ってる距離が近づいている。
そっと手に触れられて、あぁ、そーゆーことかと納得した。

「俺、好きな子いるから今からデートってわけにはいかないよ?」

「デートじゃなくて…もっといい事、しません?」




美人局か?と思って尋ねたけれど、普通に免許証出されて笑った。
いや、いくらヤリ目でもここまでする?
本人に聞く所によると、ただ純粋にそーゆーことをするのが好きらしく。アプリで会うはずだった男にすっぽ抜かされたから逆ナンしてみたとのこと。

まぁ、一人で居たら彼氏と居る苗字の事を考えてしまいそうだし。
なんだか投げやりな気持ちも相まって、ホテルに入って、二人。 

後ろ姿が似てるから、苗字と重ねて背中越しに抱きしめて。
よく似た髪を、慈しむように触れて虚しくなる。

「…倫さん、さっき知り合いに似てて…って言ってたけど」

「うん。」

「それ、好きな子でしょ?」

「…うん。」

なんでわかったの?と尋ねると、女のカンですと笑われた。
今日知り合ったばかりの他人。俺と苗字の事を知らない他人、という相手だから、つい口が軽くなる。簡単に苗字との間柄なんかを話して。

「俺さ、その子とソフレなんだよね」

そう打ち明けた。

「え、それって寝るだけ?よく耐えれるね」

「まぁ、いっつも会う時は酒入れてっから…」

「勃たないようにしてるんだ?健気だね」

オブラートに包まずに、あっけらかんと彼女が言い放つ。

「今日、彼氏に会うんだって。…俺、今度こそ振られんのかも、とか…思う」

弱気な本音がぽろりと。
そんで同時に、俺は苗字に振られんのが怖いんだと自覚した。
だから想いを口に出すことを躊躇って、そのツケが回って、不毛な片思いに悶々として。

「私にすればいいのに。タイプなんじゃない?」

「…かもね」

ほんと、割り切って別の子でもいいはずなんだけどな。頭ではわかっていることに、気持ちは従ってくれない。

「口が回り過ぎたわ。ちょっとシャワー浴びてくる。」

「いってらっしゃーい」

体温よりも少し低い湯水を浴びながら、苗字は今何をしてるんだろうと考える。
彼氏と会って、それで。
アイツのためになら、シャワーを浴びるんだろうか…とか考えて、やめた。
俺、めちゃくちゃ女々しい。

普段の俺なら、こんな女々しくごちゃごちゃ考えるのなんかめんどくさくて、きっと考えを放棄するだろうし。
人間関係だって割と器用にこなせる方なのに、苗字一人儘ならない。

苗字に恋をしてると、柄じゃ無いと思っていた自分が顔を出して嫌になる。
それなのにーー、


「倫さーん、LINEきてたよ?」

シャワーを終えると、そう言いながら端末を差し出された。
通知にある名前を見て、慌ててタップする。
苗字から、『今夜、会えない?』と一言だけ。
答えは一つしかなくて。
でも、がっついて見られないように素っ気ない言葉を選んだ。

「好きな子からだった?」

「そんなわかりやすい?」

「さっきまで浮かない顔してた癖に、なんか嬉しそうなんだもん。」

片思い卒業てきるといいね、と笑われて、どーも…と返す。

「あ、もし失恋したら胸貸すよ!レンタルどう?」

すっからかんな軽い響きの言葉がアホらしくて、ちょっと笑ってしまう。

レンタルか、どっかで言った気がする。
この言葉を選んだ時の俺は、苗字に出来るだけ軽い気持ちになってほしかった。
抱きしめて眠るには、苗字の背中は強ばり過ぎていたから。

「んー…失恋したら、一人で落ち込んどく」

誰かに言われた言葉の端々でさえ、苗字のことを思い出してしまう時点で、失恋したら一人の方がいいと思うから。







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