04.
「久しぶり、啓吾。」
「…久しぶりですね。元気してました?」
夜の街は冷える。博多駅は、毎年恒例のクリスマスのイルミネーションで嫌になるくらい幻想的だ。
青い電飾のせいかな、寒色って見てると冷える気がする。羽があればまだ暖かいけれど、生憎本日の業務で使い切ってしまった。仕方ない。
少しでも熱が伝わればと思って名前さんの肩を抱くと、彼女はありがとうと顔を綻ばせた。 …この表情を知ってるのは俺だけでいいのに。
「今日、開けてもらって大丈夫だった?」
「開けるって言っても、夜だし。俺、いつも真面目に働いてるんで休めって言われるんですよ。」
ほら行きましょ、と駅ビル内にあるシアターへと続く道へエスコート。用意したチケットは、彼女が見たいと言っていたものだ。
「…これ、見たかったの!すごいね、どうしてわかったの?」
「なんとなく、かな。」
わかりますよ、だって言ってたじゃないですか。 ーー俺じゃない男に。
「少し、趣味が若いかなと思って…誰にも言えなかったの。」
「…そうなんだ。」
嘘つき。 知りたくなかった。名前さんが平然と嘘をつく姿を。
名前さん、あなた動揺したときは目を逸らす癖があったじゃないですか。 あの癖もでないくらい、嘘つくのは簡単になったん?内容が一切入ってこない映画を見終えて、本当ならそのまま天神あたりの飯屋にでも…と思ったけれど。
「啓吾?」
「ごめんなさい食事は後でいいですか、」
「お昼遅かったからいいけど…どこ行ってるの?」
「ホテル。」
タクシーを捕まえて、少し。 帽子とダウンがあってよかった、軽い変装にはなるだろう。
「っ、待って、まだ部屋入ったばっかり…」
「だから?」
「ねぇ、どうしたの、」
「わからないなら、何も無いんじゃないですか?」
「待って、こわいよ啓吾っ」
怖い?俺の方が心底怖いよ。 必死に縫い止めても、いつ離れていってしまうかわからない今の関係が。 もう離れ始めているかもしれないあんたが、怖い。
「…黙れよ」
噛み付くような深いキスをして、黙らせる。 歯列をなぞり、上顎を掠めるように舌を這わせた。左手で名前さんの乱れた髪に手を伸ばし、耳へと掛けると、彼女の体がびくりと震えた。
強姦紛いの事はしたくない。俺だってヒーローの端くれだ。愛撫はこれでもかという程優しく、耳元では愛を囁けば、名前さんも安心したようで。 潤んだ瞳で俺の名前を呼ぶ姿に胸を撫で下ろす自分が居た。
「名前さん、好き、好きだっ」
「けいご、けいっ…ぁっ…〜!」
俺が言う愛の言葉に、いつもなら優しく頷いて私も好きだと言ってくれるのに、帰ってくるのは、ただ俺を呼ぶ声。 いつものように背中に腕を回され、甘く爪を立てられる感触は無い。
縋るようにシーツに縫い止められた手は、なんだか遠くにあるように感じた。
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