03.
あんな事があってから、彼女が俺のことを好きかどうかなんて、そんなものはわからない。
けれど、付き合ってそれなりに好意を寄せられていたのは事実だ。…例えそれが過去としても。 だからマッチングした彼女と距離を縮めていくのは簡単な事。 忙しい仕事の合間に、メッセージを交わす。
「俺以外の男にも、簡単に心開くんだ…」
ハッ、と乾いた笑いが溢れる。 俺が名前さんに、何度もアプローチをしたのが馬鹿みたいだ。
指先を画面上で滑らせる度に傷つくだけなのに、メッセージを送る手は止まらない。
ナマエ:ミカタさんって、面白いですね
ミカタ:そうですか?ナマエさんが相手だからかな つい楽しくて喋りすぎちゃって笑
ミカタ:よかったら、会ってお話ししてみたいんですけど今週末とかどうですか?
俯瞰してみるとヤリモク男みたいな台詞。 なんだか笑えてくる。
ナマエ:まだ会うのはちょっと…
ミカタ:ちょっと?
ナマエ:仕事が忙しくて。ごめんなさい。
会うのは断るのか。名前さんの慎重な性格からすれば、腑に落ちるけれど。
「…何のためにこんなこと、」
浮気なら、もっと効率の良い方法があるのに。 何度か、会いたいと言ってみたものの断られるばかり。 他の男ともマッチングしているのかと思えば、自分からマッチングをしたことは無いらしく、メッセージをこんなに交わすのも初めてだと言う。
プロフィール欄は簡素で、写真は一つも載せていない。写真を送ってくれと言ってみたけれど、それも断られた。ヤリモク男もこれでは引っかからないだろう。
ーー名前さんの目的がわからない。
ただ裏切られたような気がして、それで? 自分が何をしたいのかもよくわからずに、自嘲気味な笑みが溢れた。
ミカタ:お仕事が忙しいなら、仕方ないですね
ナマエ:すみません
ミカタ:いいえ、お仕事がんばってる方は好きなので!
ナマエ :そう言ってもらえると嬉しいです
そこまで打ったところで、通知がポップアップされる。マッチングアプリからではなく、いつも使っているメッセージアプリから。
名前さん:土曜日休みになったから、よかったら会えない?
今週末は仕事があるんじゃなかったの?あぁ、それはナマエさんだったっけ。ミカタにつかれた嘘と照らし合わせて思わず喉を鳴らして笑ってしまう。 酷く自嘲気味な笑いだった。 土曜日、かぁ。週末は忙しいんだけど…まぁ、夜だけなら開けれそうだな。
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