02.
昨夜は無理をさせたな… 。 朝には強い方なのに全く目を覚さない名前さんに反省しつつ、体を起こした。 空はしっかり夜が開けていて、鳥のさえずりや車の音が聞こえる。俺も出勤準備をしなければ。
今日は土曜日。彼女の職場は休みだろうから、寝かせて置いてあげよう…と思いながら、くぁっと控えめに欠伸を一つ。 彼女のスマホが床に転がっているのを見つけた。
「充電せんと…」
布団から出るのも億劫だし、羽を使ってスマホを持ち上げれば、画面が照らされた。
まだ朝早い時間のメッセージ通知。 俺以外と連絡を取り合うことのない人だから、緊急の連絡かもしれないな。 軽い気持ちで、画面を見た。
「…嘘。」
驚いた時に出る言葉の意だけではなかった。 嘘であってくれ、そんな願いがこもった呟きでもあった。
通知の最初に並ぶ文字の羅列。アイコン。 それらは、ここ数日で見慣れてしまったものだった。
「ん、けいご…?」
「名前さん…!お、おはよう。」
勝手に見てしまった後ろめたさと、信じられない事実に、そっとスマホをベッドの下へと置いた。
「おはよ、」
ふにゃ、と笑う名前さんの顔。 なぜか喉仏をぐっと押されたような苦しさがした。
「名前さん、」
「どうしたの、?」
「…いや、なんでもない。」
問い詰めることは、何故かできなかった。 自分の性格からして、絶対にここで問い詰めて、彼女を追い詰めるだろうに。 寝ぼけている名前さんの瞼がどんどん落ちていくのを見ながら、いつもなら温まっていくはずの心は、急激に冷えていく。
まだ、違うかもしれない。見間違えかもしれない。自分のスマホから、消すはずだったアプリを起動させてーーマッチングさせたのは、彼女と一致しすぎているあのプロフィール。
…ブルブル、と彼女のスマホが震える。
あぁ、やっぱり。
もう少し器用に、プロフィールの項目に嘘をついてくれてもよかったんじゃないか。 それをできないのか、しないのかはわからないけれど、彼女への愛しさから生じる憎しみが沸々と頭を熱くした。
彼女が寝返りを打つ。 向けられた背中を見て、怒りよりも勝るのは恐怖だった。この人を失うのが怖いという、ただの好意よりも不気味な執着心が、酷い事を思い付かせる。
無機質に動いていく指先が、やけに冷たく感じた。
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