同級の彼.




日向達の新しい速攻、月島の変化、チームとしての力の向上。烏野にとって大きな変化をもたらした夏。

春高の予選も控えて、その変化の一つ一つがうまく重なり合っている。充実している日々だ。マネージャーとしての仕事にも気合が入る、…はずなのに。

夏休み明け、久しぶりに会った友達に言われた一言で、私は沈んでいた。





「名前、この間あいつに会ったよ。お盆だから実家帰ってたみたい。」

「え、あぁ…」

同じ中学からの友達が言う、"あいつ"。実家に帰ってきたみたい、の言葉で一人に絞られる。

「名前どうしてんの?って聞かれたから、勉強も相変わらずトップだし、バレー部でマネージャーしてるとか言っといたけど…連絡とってないの?」

友達の言葉は図星だった。
卒業してから気まずさに耐えかねて、連絡はしていない。向こうから来る連絡にも、上手く返せずに2年が経つ。

「…あー、あんまり連絡ないかも。ほら、あっちも忙しいかなって思ってね、うん。」

「意外だね!絶対に白布のやつ、名前のこと好きだったじゃん!」

ぎく、と口角が固まる。
それを気付かれないように、早口でまくしたてるように言った。

「…き、気のせいだよ!ほら、予鈴鳴るよ!教室戻ったほうがいいんじゃない?」

「もうっ照れちゃってー!じゃあね!」

白布、賢二郎。
中学のときの同級生である彼と、離れて2年ほどしか経っていないのに…その名前が懐かしく感じるのはなぜだろう。





「名字も、白鳥沢受けんの?」

クラスメイトだけれど、クールな印象のある白布には近寄り難くて。初めて話したのは白鳥沢のオープンスクールの時だったと思う。

「も、ってことは、白布君も?」

「そう。俺も受けようと思ってる。名字は青城の特進とか受けるのかなってイメージだったけど、白鳥沢も考えてたんだな。」

白布は整った顔立ちと文武両方に秀でていることから女子に人気だった。けれど、告白をすれば一刀両断されるらしく、女嫌いと噂されていた。
だから白布に話しかけられた時には、少し驚いた。

「うん、第一希望…のつもり。」

「へぇ。俺らの学校から白鳥沢受けるの、珍しいな。中高一貫で、学費も結構…親にも若干反対されるくらいだし。」

「そうだね…私も他には聞いたことないかも。」

中高一貫の白鳥沢は、自ずと偏差値も高くなる。部活動にも力を入れているために、施設や行事にもお金がかかる学校だ。私は親の勧めだけれど、白布は違うようだった。だから、つい気になって聞いてしまった。

「白布君は、どうして白鳥沢を受けるの?」

白布は、不適な笑みを浮かべて言った。

「バレー。一番強くて、一番かっこいいチームで、バレーをするため。」

思えば、私が初めてバレーボールに興味を持ったのは、この時だった気がする。
ーー親に反対されてもそこに行きたいと、したいと、そう思えるバレーボールって、どんな魅力があるんだろう。
白布の力強い瞳には、そう思わざるを得なかった。

「名字は?」

「私?わたしは…そうだなぁ、将来のため、っていうか。良い高校を出て、良い大学に行くって…ただそれだけで…白布君みたいにちゃんとした理由じゃないの、なんか、恥ずかしい。」

自分の、流されるまま決めた進路が恥ずかしかった。
勉強はすれば身につくし、そこまで苦でもない。
親からも期待されている。別にここに行きたいとか、これがしたいとか、そんなのも見当たらないから。
言われるままに、頑張ればいいんじゃないかって…何も考えずにここまで来た。

「将来のためか。名字はしっかりしてんだな。」

だから、あっさりとそう答えた白布に、少しほっとした。今思えば、白布はよくも悪くも他人にあまり関心が無い。あのころは、まだ唯のクラスメイトという関係性だったし、世間話の一環だった。

体験授業やツアーも終わったし、後は帰るだけ。これ以上話も続かないだろう…から、話を切り上げよう。

「これから、部活見に行くの?バレー部、白布君が憧れるなら、すごくかっこいいんだろうね…」

じゃあ楽しんで、そう言おうとしたら、遮られた。

「気になるなら、見に行くか?」

「え?」

「俺、今から行くし。」


天井の高い体育館、力強くボールが床に叩きつけられたと思えば、いつまでも続くラリー。
体育でのバレーボールとは違う、バレーボールに全力を注ぐ人たちによって行われるそれは、私にとって未知だった。

「かっこいいね、すごい…。」

「…だな。絶対、あの人にトス上げてみせる。」





私がバレーボールの魅力を知ったきっかけは、きっと。
きっと、白布だった。
その証拠に、ふつふつと闘志を燃やすような白布の横顔を、私は今も忘れられない。

『白布』と、登録した連絡先からは、度々メッセージが送られてきていた。

最後に来たのは、2年に進級したばかりの頃。

「今も待ってる、か。」

たった6文字のメッセージに、返せないままでいる。










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