後輩とテスト期間に一緒に帰る.




「影山、最近名字といるのよく見るな」

スガが面白がるように、俺に言う。

「そうだな。赤点回避してくれるといいんだが…」

「名字教えるの上手いし、大丈夫なんじゃないか?俺もたまに英語とか教えて貰ってるし」

「旭、お前後輩に教わってたのか?」

「ひっ、いや、その…文法とかって大体2年で習うし!まぁ…不甲斐なくはあるけど…」

「しっかりしろよ。3年が追試はカッコつかないからな。」

ひげチョコが慌てているのを横目に、そーいや名字と旭は仲いいんだっけ…と思う。
まぁ、なんか穏やかな感じとか人に気を使うとことか似てるとこあるしな。





影山と名字は、どっちかっつーとあんま共通点は無い。それなのに最近よく一緒にいるのを見かけるのは、縁下曰く名字が影山に勉強を教えているからとのこと。
まぁ、影山は人に教えを乞うのが上手くは無さそうだし、交友関係も広くは無いだろう。

名字はよく気がつくやつだ。それに、後輩の面倒を見るのが割と好きな方だと思う。先輩には遠慮がちな分、甘えるよりも甘やかす方が性に合うのかもしれない。

もう少し、頼ってくれていいんだけどな…なんて思いつつ、帰りに、苦手と言っていた数学について尋ねてみた。

「わかんないとこあったら言ってくれよ!まぁ、名字はずば抜けて成績いいし…俺じゃ頼りないかもだけどさ。」

一応、俺も進学クラスだし。
2年までの範囲なら大丈夫なはずだ。

「いいんですか!?」

食い気味に返された言葉に驚いた。
でも、それと同時に。
いつもは遠慮がちな名字が、他の後輩達と同じように俺を頼ってくれることに嬉しさを感じる。
喜びを噛み締めていると、影山によって話が遮られた。

「今日、夜わかんねーとこあったら電話してもいいっすか」

その言葉に、引っかかってしまう自分がいた。
電話越しの少し高めな名字の声を…
今、俺何考えた?

名字に自分の勉強時間を大事にしてほしいというのも嘘じゃない。
けれど、名字が影山と電話するっていうのに引っかかりを感じてしまって。もっともらしい理屈で影山に助言をするくせに、それを後ろめたく思ってしまう自分がいた。

送っていこうと声をかけて、遠慮がちな名字の頭に手を乗せたのも…なんていうか、なんだろう。独占欲…みたいな。





一緒に帰ることになって、俺よりも小さな歩幅に合わせて歩く。ゆっくりな歩調に、女子とあるいていることを改めて実感させられて。

「澤村先輩、あのっ、」

「おう、どうした?」

「…す、数学!わからないところあって。さっきのって、本気にしてもいいですか?」

緊張した面持ちで名字がこちらを見つめる。
なんか、かわいい…って、あれだからな!後輩として!っていうか…なんというか。

「うん。部活後とか、連絡してくれたらいいから。」

「あっ、ありがとうございます!」

ふにゃりと嬉しそうに名字が笑うのを見て、どくんと心臓が跳ねた。

俺から目を逸らして困ったような名字の顔、それはよく見ていた。
でも、俺と目を合わせて綻ぶ笑顔は初めてなように思えるくらい衝撃的だった。

「…名字、「あら、名前!丁度今帰ってたの?…あ、そちらは?」

俺の言葉に被さって聞こえた言葉に振り返ると、そこには名字に似た女性がいた。

「お母さん!…その、部活の先輩だよ。帰りが遅くなったから送って貰って…」

「初めまして!名字さんと同じバレー部で主将の澤村です!」

「あぁ、バレー部の…。いつもお世話になってます。今、テスト前だけれど…結構遅くまで部活があってるのね。」

あまり良く思われていないのだろう、少しピリッとした空気を感じる。

「そう、ですね」

「主将だって言ってたけど」

「はい」

「マネージャーって、必要かしら?」

「えっと…?」

突然、投げかけられた問いに思わず固まる。
どういう意図があるのか、そんなに考えなくてもわかった。

「ちょっと、お母さん!」

「名前には聞いてないでしょ。ほら、今度の合宿も試合に出る訳でもないのに態々行く必要がある?名前一人居なくたって、部活は回るじゃない。」

「必要です。ーー絶対に。全国に行く為には、マネージャーの…名字の力も必要です。」

「試合に出て、全国という結果に直接貢献する訳でもないのに?」

名字は、さっきまで笑っていたのが嘘のように涙目になっている。
確か部活をしていることが良く思われていないと言っていた。

「名字のサポートは、俺たちが全国に行くための力になります!」

自分が思うよりも、声を張ってしまった。
それくらい、伝えたい気持ちが強いんだと感じる。

「それに…俺は、勝とうしなければ勝てないと思っていて。それは主将をしている上で、ずっと掲げてきた信条みたいなものです。…それでも、たまに揺らぎそうになる時がありました。」

この前のIHの予選、青城に負けた時もそうだった。
勝とうとしても、やれると思ってもーーできない現実があるのは知っている。それでも…勝とうと、やれると思わなければ叶わない。

「名字は成績で上位でい続けようと、努力して実現してます。…その頑張る姿勢を見ると、俺も頑張らないとって勇気づけられて。」

だから、名字が必要なんですと訴えると、名字の母親は、そう…とだけ相槌を打った。

「…お母さん。私、絶対1位とってマネージャー続けるから!!先輩にこうやって言って貰ってるのに、中途半端に終わらせたりしない。」

「…時間の使い方、しっかりね。ーーそれから澤村君、娘を送ってくれてありがとう。」

名字は家の門へと手をかける母親に続いて歩きだそうとする前に、ありがとうございました!と俺に頭を下げた。
母親に気を使ってか、小さく付け加えられたすみませんという謝罪に、気にしてないと笑ってみせる。

一人、元来た道を歩きながら、大きく息を吐いて。
思いっきり吸う。

「…よし、」

名字の頑張りが、認められるためにも。
絶対に全国に行くと心に決めた。








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