すれ違いざまマシンガン.




「…無い」

上履きは無事。流石に一度経験した事は回避できた。
けれど、上履きが無いならロッカーを…となる事までの予測が出来ていなかった。
教科書が数冊無くなっているロッカーをみて、溜息を吐く。

…まぁ、友達に借りればいいか。

上履きはどうしようもなかったけれど、教科書なら人に借りればいい。
あまり反応しなければ、向こうも面白く無くなって、その内教科書も返ってくるだろうし。
一度目は不安で、よくわからない悪意に傷ついたけれど、二度目だ。

「あれ、宮侑の…」

「嘘…だって、…じゃない?」

「なんで……だよね〜…」

廊下を歩けば感じる視線にも、時折聞こえる悪口にも、少しの居心地の悪さを感じるだけ。
精神的にも10代の頃に比べてタフになったものだとそう実感しながら学校を終え、バイトに励んだ。


「名字さん、侑と付き合っとんの?」

「…そうだけど、治君知らなかったっけ?」

一度腰を痛めて以来、整骨院に来ている治君の言葉に、不意を突かれる。

「身内の恋バナとか気まずいし、一々彼女できたからって聞かへん。」

興味無いし、と付け加える治君の腰に、電気治療のパットを貼っていく。

「…まぁ、あの人でなしにムカついたら言うてや。代わりにシバくわ。」

「ハハ…ありがと」

電気治療の機器を設定して、カーテンから出ると、院の先生から、今日は治君で最後だし上がっていいよと声をかけられる。
ケーシーから制服に着替えて、整骨院を後にすると、丁度治君も一緒だった。

「おお、おつかれさん」

「お疲れ様。」

「…あ、」

「なに?」

治君が私の顔を見て、何かを思い出したかのような声を上げた。
尋ねると、「そういや、ツムの奴が最近練習終わってから時間潰しとったな思って。先帰れ言うから置いていっとったんやけど…」とニヤニヤしながら私を見る。

「ここ来とったんやな」

ニヤニヤしている顔、本当に侑とそっくり。
よく似ている双子だな、とつくづく思う。

「家、どこ?」

「ここから歩いて10分くらい。」

「ほんなら送ってくわ。」

「いやいや!大丈夫!」

「暗い中、流石に女子置いてくんは無いやろ。宮家は、そないな事したらオカンにしばかれんねん」

俺、ツムよりも人間できとるからな?と言う治君に笑ってしまう。
裏のコンビニに寄って肉まんを奢ることで、お言葉に甘えさせてもらう事にした。

「最近、ツムのやつ浮かれてんねん。友達とすいぞっかん行ってくるわ〜って飯の時に言うてたんやけど、すいぞっかんとか男と行くわけないやんな?オカンに彼女できたんやなってすぐにバレてたわ」

「それは…」

コメントに困る。
治君も水族館のことを、すいぞっかんって言うんだ…と少し笑えた。

治君の横顔を仰ぎ見る。
肉まんを頬張る治君はご機嫌で、そういえば侑が『アイツは飯やっとけばそれだけでご機嫌やから!』と言っていた気がする。

「…なに?」

見ているのがバレてしまったようで、治君が首をかしげた。
ううん、何でもないよ!と慌てて言うけれど、治君はハッと鼻で笑った。

「ツムに似てるなとか思ってた?」

「まぁ、双子だし…。でも、侑より治君の方が落ち着いてると思う」

「せやろ。俺の方が大人やねん」

軽口をたたきながら最後の一口を頬張って、治君は手を合わせた。それを横目で見ながら、高校生の頃から、食に対して真摯に向き合っているんだな、と感心する。
いい食べっぷりに、釣られて食欲が湧いてきた。

「あ、家そこだから。送ってくれてありがとう」

「おん。こちらこそごっそーさん」

治君の背を見送って、玄関に入ってすぐに盛大にお腹が鳴る。
その日の夜ご飯はつい食べ過ぎてしまった。




翌日。胃もたれを感じながら登校すると、挨拶代わりか、肩をぶつけられた。

「すみませ、」

「うわ、男好きやん」

すれ違い様に、言われた言葉に首を傾げる。
男好き?侑と付き合ってるだけで?
前はこんな趣旨のことを言われた事は無くて、困惑してしまう。
女子の視線は相変わらず鋭いし、友達に聞くのも憚られる。ただでさえ、教科書借りたりで迷惑をかけている身だ。

「どういうこと…?」

まるっきり私が経験した過去と一緒では無い展開に、思わずそう呟きが漏れた。






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