クレオパトラの衣装もきっと悩んで.




今日もバイト帰りに宮君は迎えに来てくれた。こんなにマメな性格だったっけ、と少し不思議に思うけれど、付き合いたてならこんなもんかと勝手に納得する。

「名字さん、明日バイト?」

「いや、明日は休みだよ」

「予定ある?」

「無いけど…どうしたの?」

宮君が、ニヤッと笑った。
なんだか不敵な笑みに、何を企んでるんだろう…?と、続きの言葉を待つ。

「フッフ、デート行かん?」

デート…デートか。
多分、宮君と出かけるのは初めて。
高校生同士の初デートの機会を、いくら自分とはいえ、大人になった私が奪っていいものか…。

固まっている私を見て、宮君がぎこちなく笑う。

「…やっぱ名字さん、あんまそういうの好きやないよな。忘れてええから、」

あ、これは駄目だ。
こんな風に笑う顔は見たくなかったし、させたい訳じゃなかった。

「ううん、突然でびっくりしただけ!どこ行こうか!?」

「ほんま!?ええの!?」

パッと切り替わった表情に、釣られて笑ってしまうと。それを肯定と受け取ったのか、宮君はそれはもう嬉しそうで。

「すいぞっかん好き?」

すいぞっかん…あぁ、水族館か。
この辺だったら、少し遠出になるけどマリンワールド。侑と初めてのデートで行った場所だ。

「好き、かも」

「なら決まりやな!」





デート、なんて久しぶり。
侑はシーズン中で、半年は一緒に出掛けていなかった。

「何、着よう…」

クローゼットを開くと、懐かしい服が並ぶ。
この時代ってこういうの流行ってたっけ…と思いながら、あまりトレンドに左右されなさそうなものに手を伸ばす。
秋だから、日が暮れると冷えるだろうし…上から羽織る物も。
水族館だから、少し爽やかな感じにしたいな…って、こんなに服を悩むのも久しぶりな気がした。

白いノースリーブティーシャツは、クルーネックでさりげなく二の腕もカバーしてくれる気がする。せっかく、若いんだし…二の腕くらい出してもいいよね、、?
アイボリーの薄手のカーディガンに、淡いピスタチオグリーンのロングスカートを合わせて。
歩くから、靴はキャンパス地のスニーカーにしてカジュアルに。
 
私が経験した侑との初デートとは異なる装いだけれど、これはこれでよく似合っている。
前はお化粧も色付きリップくらいにしていたっけ。侑は気づかなかったくらいの控えめなおしゃれ。

初デート、は流石によく記憶に残っている。
確か、侑は5分前に慌ててやってきて…ベタな待った?今来たとこ!の立場が逆になったと嘆いていた。侑は魚よりも海獣に夢中になって、勝手に名前をつけていたっけ。
お昼ご飯は、水族館の中に入っているカフェで…待って、お昼ごはん、カフェ…。

私と侑が隠し撮りされた写真を思い出す。
確か、侑と付き合っていることが周囲にバレたのはこのデートでの隠し撮りが出回ったから。

「…すっかり頭から抜けてた、」

過去に戻るなんてとんでも体験のせいだ。
どうしよう、そこから起こる出来事なんて、全部わかってる。

「今からでも断る…?」

連絡しようかどうかを迷って、スマホに触れるとタイミング悪く宮君からの通知。

宮侑:ごめん、楽しみすぎて時間言うの忘れとった!明日は駅で10時に待ち合わせでええかな?

うさぎがぴょこっと穴から顔を覗かせるスタンプと共に送られて来たメッセージ。
楽しみにしてくれているのが伝わって断るのは罪悪感がわく。

「…だ、大丈夫だよね、私ってバレなければいいんだから!」

大丈夫。だって、これからわかってる事ならば避けられるはずだ…と自分を納得させて、了解の意味を示すスタンプを送る。

送ってしまってから、少し後悔してしまったけれど、覚悟を決めたんだ。仕方がない。

「…がんばろう、」






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