光の船.




結局、実家で一眠りついても、それを何度か繰り返しても、私を取り巻く状況は変わらなかった。

「名字さん、はよ」

「おはよう」

このやり取りも、もう3回目だ。
宮君と過ごす日々は、過去を反芻しているようなもので。
未来が変な方向へと変わってしまわないように、無難には過ごしているものの…

「…髪切った?」

「いや、切ってないよ?」

宮君は意外と変化に鋭い。
髪は切っていないけれど、軽く化粧はした。少し違うという違和感に、案外気付くらしい。侑は、髪切っても気付くの3日後とかだけど。

LINEの通知音がして、画面に目を向ける。

宮侑:なんか今日かわいーやん

「〜っ!」

なんか、今日、かわいいって…!
隣にいるのに、態々LINEで…というのは付き合っているのをあまり公にしていないからだとはいえ…

隣を見れば、悪戯が成功した子どものようにニヤッと笑う宮君。
母性をくすぐられるというか、なんというか…心臓に悪い。
かわいいなんて、こうやって言われるのは本当に久しぶりだから!そう、決して年下に翻弄されている訳じゃ無い!

宮君はいつもかっこいいよね、やり返すような気持ちでそう送ると、隣でガシャンという音。床に落ちたスマホを拾おうとして、重なる手。

「っあ、すまん!」

「…ううん、大丈夫!」

小声で、ありがとぉな、ぶっきらぼうに呟く宮君の耳は赤い。なに、その反応…かっこいいなんて言われ慣れてる癖に!と頭の片隅で思う。

侑は聞き飽きた、十分知っとる、とでも言わんばかりだったはず。他の女の子に、ファンに…かっこいいと言われたら、せやろ?と返す侑の姿を思い出す。

だから、こんな反応をするなんて思いもしなかった。そもそも、私侑に対してかっこいいとか言ったことあったっけ?

宮君の横顔を眺める。
造形がよくて、程よくついた筋肉に支えられた背骨はまっすぐ。
意外と姿勢が良いところに、憧れていて。
かっこいいと、思っていた。

ーー「俺がハリウッドもびっくりな横顔しとんのはわかっとるけどなぁ…お前ジロジロ見すぎやねん!穴開くわ!」
なんて、侑に言われるくらいには見惚れてたのだ。

宮侑:めっちゃ見てくるやん。なんか着いとる?

あ、バレた…!!
びくっと、わたしの背筋が震える。
図星ってこともバレちゃうじゃん…。

何も着いて無いよ。姿勢が良いなって思ってただけ、と文を打ち、送るところで手を止めた。
右上の消去ボタンを何度か押して、新しく気持ちを綴る。

何も着いて無いよ。かっこいいなと思って見てただけ。

紙飛行機のマークを押すと、宮君の顔がパッとこちらに向いて、すぐに逸らされた。

宮侑:名字さん、そういう事言うタイプとちゃうと思ってた

確かに、あんまり言わないタイプだ。
変だったかな、と少しの不安を尋ねると、花に囲まれたうさぎがスキップをしているスタンプが送られてきた。

「っふ、なにこれ、」

宮侑:嬉しい!

隣を伺えば、ニカッと歯を見せて笑う宮君。
うさぎのスタンプと、なんだか表情が似ている気がして笑ってしまう。

そっか、こんな些細な事でも喜んでもらえたんだ。
侑にも、こうやって素直に気持ちを伝えておけばよかったな。

なんだか無性に、侑に会いたい。







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