ええこと.




「すまん、今日は部長会議や」

水曜日。
昼休みに、生徒会主催の部長会議があるらしく、今日は北と一緒にご飯は食べられない。
いつも一緒に食べる友達と食べたけれど、その友達も委員の当番があって。
まだ大分時間のある昼休みを持て余していた。

「…またあの人、」

北を迎えに来た彼女のことを思い出し、溜息がでる。
なんだか、一人でぼーっとしていてもモヤモヤしてしまうし。
図書館にでも、と足を運んだ。

「こんにちは。」

「あ、こんにちは。…図書館帰り?」

廊下を歩いていると、角名君に遭遇した。
尋ねれば、こくりと頷く。
手にしているのは、おどろおどろしい表紙の…ホラー物の本だった。

「本、返そうと思ったんですけど。部長会議あってて。」

「…じゃあ、私も引き返そうかな。」

「入っちゃいけない訳ではないんで、行っても大丈夫だと思いますよ?」

角名君は、きっと親切心で言ってくれたんだろうけど、私は完全に図書館へと行く気が無くなってしまった。ううん、大丈夫。とたげ言うと、角名君も特に深入りはせずにいてくれた。

「…北さんと女バレの主将」

ん?!
角名君の口から出た言葉に、ばっと顔を上げてしまう。すると、角名君はやっぱり、と口元に弧を描く。

「ちょ、っす角名君!…自販機、行こ!奢るから!」

「ヤッター、アリガトウゴザイマス」

図書館から本校舎に続く渡り廊下。そこから手近な昇降口に出るとすぐにある自販機。
飲み物を座って飲めるようにか、どこかの部活が不要なものを持ってきたのか、丁度よくあるベンチに腰掛ける。
角名君の手には、なっちゃんのリンゴ味。

「…別に、言いふらしたりはしませんよ?」

「いや、ちょっとお話したくて…。その、そんなに私ってわかりやすいかな!?」

いきなり本題に入ると、角名君はクスクスと笑う。

「なんとなく、で言ってみたらそっちが引っ掛かっただけですよ。」

「なんとなく…?」

「あの女バレの主将、北さんの事狙ってそーだから。帰りとか、わざわざ男バレの集団に寄ってくるし。北さんはイマイチ気がついてなさそうですけど…まぁ、相手がいる人間を狙うっていうのが、ピンと来ないんでしょうね。」

三白眼がふっと細まる。なんだか、その瞳に見透かされているような気がする。知らなかった部活の帰りの事を知って、今もまた、モヤモヤが募っている私の心を。

「彼女さんから、ちゃんと言えば気をつけてくれると思いますけど…」

「そう思う、私も。…でも言いづらくてね」

ぶえっくしょい!!
笑って誤魔化そうとしたその時、自販機の影から、大きなくしゃみが聞こえた。

「!!?」

「ハハ、えらい驚かせてすんません、」

少しくすんだ金髪が覗く。

「…侑、盗み聞き?」

「人聞き悪ぅ!!…俺は、北さんの彼女に角名が手出さんか見張りに来ただけや!!」

「俺、侑みたいに脳みそ下半身で出来てないから。」

「おっ前な…!!」

口論が始まってしまいそうな雰囲気。
あれ、ちょっとこれ、どうしたらいいの…!?
とりあえず、侑君にもジュースを奢る事を提案してみると、意外とすぐに事態は治まった。
三ツ矢サイダーを手にした侑君は、まるでCMのように喉仏を上下させながら、ごくごくと飲む。

「ぷっはー!…んで、俺ええこと思いついたんやけど!」

ええこと?
角名君と二人、首を傾げると、侑君はフッフと不適な笑みを浮かべた。







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