傲慢や.
何か、雑談の中で話題が転じたんだろう。 あんまり深くは覚えてないけれど、北は私に不満とかないの?なんてことを聞いたんだと思う。
北は、目をパチクリとさせた。 パッとは思いつかへんなぁ、という前置きをしつつ。 少し考えていた。
「探したらあるかもしれないの?」
「いや、今んとこは無いなぁ。」
その時、ほっとしたのを覚えている。 じゃあ何を考えているんだろうと、首を捻っていると、北は言った。
「不満を、もし俺が言ったとする。そしたら、名字はどうするん?」
「どうする…って、治そうと思うし、変えられる所なら変えたい、と思うよ。」
そうか、と北はまた考えるような仕草をした。 そんなに考えるような話題だったかな。
「人を作るのは日々の習慣で、まるっきり変えるのは新しい習慣が身につくための時間と労力が必要やと思う。」
毎日、ちゃんと。 習慣を積み上げて、生きている北らしい言葉だ。
「そう考えたら相手に変わってもらおう、なんて傲慢な話や。どこまで許容できるかやない?俺の中で許容範囲を広げて行けばええだけのことや。」
理性的な北の言葉は、確かに納得できるものだ。 人を変えるより、自分が変わる。 その方が手っ取り早い。 あの時は、私よりも成熟しているその考え方に憧れたけれど。
今は、それが重たい枷みたいだ。
「結局は、私が子どもなだけ…だな。」
どうしたら、許容範囲を広げられるだろうか。 とりあえず北を見習って、ゴミ拾いから始めて見ようかな。 なんて思いながら、眠りについた。
このモヤモヤは、きっと昨日の帰りにあまり話せなかったからだと思う。 だから、朝練終わりの北に偶然を装って会えたら、少しは和らぐかもしれない。 いつもは、朝練があっている間に投稿しているから、眠い目をこすり、少し遅く家を出た。
通学路はいつもより人が多い。 結構、皆この時間帯に来てるんだな。 昇降口に向かえば、丁度バレー部の朝練も終わった頃合いらしく、北の後輩の子らが靴を履き替えていた。
ぁ、北さんの…という潜めた声が聞こえて、目が合う。 確か、宮君達と、角名君…だっけ。 ぺこりと軽く会釈をすると、おはざっす!と宮君達は元気がいい。注目されるから、もう少し静かにお願いしたかった。
「おはよう…?」
「お前らボリューム考えなよ。」
角名君は落ち着いている印象を受けた。 なんだか、先輩の彼女にまでしっかりと挨拶してくれるなんて、凄くちゃんとしているな。
「あ、角名君、だっけ?…北もう行った?」
「はい、職員室に用事あるみたいで。」
「そっか、ありがとう。」
残念ながら、北は行ってしまったらしい。 内心しょんぼりとしていると、角名君から視線を感じた。そんなに表情に出ていただろうか。
「…北さんの弱点、知ってますか?」
「え?」
弱点?弱みを握られようとしている? 確か静電気が苦手だった気がするけど…とりあえず首を振っておく。
「すみません、北さんって…その、なんか人間離れしてる気がして。」
「わかるかも…」
「ちょっと、気になっただけなんで。」
もう一度、すみません、と角名君は言って、先に行く宮君達について行った。 不思議な子だな。
北には会えなかったけど、初めて後輩と話せたから、少し遅めにきて良かったかもしれない。
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