構わんのかい.
「後ろの文見てみ。雨が降っとるって書いてあるやろ。やから、ここで言う神は神様の事やない。雨が降って、鳴るもんは何や?」
「雷?」
「そう。古文の神っていう単語には、神様のことと、天皇のこと。それから雷って意味がある。昔は今より神様への信仰も深かったやろし、説明つかんもんは神様か霊の仕業になるんや。雷も神様のせい、って思われとったんかもしれんな。」
訳の訂正を、丁寧にしてくれている。 神様について解説する北も、徳を積み過ぎて、そのうち祀られそうな気がする。
「ありがと、わかった。」
テスト前の放課後。今日は約束していた休養日にあたるらしく、北と一緒に勉強をしている。 ちょっと違うけど、放課後デート、みたいだ。
「なんや、浮かれてんなぁ。」
ふふ、と北が笑う。 そんなに顔に出てた? 恥ずかしくなって問題を解くポーズをとりつつ、話題を流しそうとしたけれど、見透かされているのか、また笑われてしまう。 北だって、浮かれてくれてもいいのに。私ばっかり好きみたい。
「そろそろ、帰ろか。」
「そうだね。」
時計の針に目を向ければ、下校時間が近づいていた。 キリがいい所まで解いて、2人で昇降口に向かう。 靴を履き替えようとロッカーに手をかければ、信介!とよく響く声。
「おつかれ!!」
また、か。
「お疲れさん。女バレも休みやったん?」
「せやで〜、久しぶりにちゃんと勉強したわ…あ、」
視線が合う。 北の後ろにいたとはいえ、こんなに眼中にされないとは…とちょっとモヤっとした。 努めて笑顔で挨拶をすると、相手も同じように頭を下げる。
「名字さん、やっけ?えらい、小さくてかわええな」
にこっとして彼女は言うけれど、なんだか素直に受け取れない。スタイルのいい彼女に言わる、小さくてかわいいという言葉は棘があるように思えた。 そんなことないよ、とこれまた努めて笑顔で言う。
「…なぁ、あたしも一緒に帰ってええ?せっかく信介の彼女に会えたんやし、仲良うなりたいわ。」
えっ!!!思わず心の中で声をあげた。 久しぶりに一緒に帰れるのに!? どう断ればいいか、頭をフル回転させる…けれど。
「あかん?」
「名字がええなら、俺は構わんけど。」
北がこちらを伺うように目を向ける。 ここでダメと言えるような度胸は無くて、結局了承するしかなかった。
「この間の練習…」
「やっぱりレシーブが…」
「でもそれやと…」
私を挟んで頭上で繰り広げられる会話は、帰宅部の私には入っていけないものだった。 なんだか間にいるのも申し訳なくなって、北に立ち位置を代わってもらうと、完全に疎外感。
仲良くなる気ないじゃん。
やっぱり、邪魔したかったのかな。 文句の一つでも言いたいけれど、彼女は女子の暗黙の了解の中でも、発言権が強いタイプだし。私が負ける気しかしない。
結局、通学路が分かれるまでは彼女と一緒に帰った。
「すまん、バレーの話ばっかりになってしもて。」
「ううん、仕方ないよ。」
謝るところ、そこ?もっと他にあるんじゃないの?私、北と一緒に帰れるの楽しみにしてたんだよ?…なんて、そんな風に思ってしまう私は性格が悪い。 なんとなく、その後は話す気が起きなくて。北の話に相槌を打っていたら、自宅に着いた。
『…不満あるなら、ぶつけて見るのも一つの手やない?』
大耳が言っていた事を思い出す。 この不満は北にぶつけても仕方がない気がする。 不満の原因は、あの子にある。北に私がとやかく言って解決する訳でもない。 もしも不満をぶつけた所で、北に正論で返されたら、私が傷つくのは明白だ。
それに。 私は北に、不満が言えない理由がある。
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