あかんわ、ほんまに.
俺も男やから、可愛いくてしゃーない彼女とのあれそれを考えてまう訳で。 それでも人一倍強い理性で押さえ込んで、大切にしたい一心で伸ばしてまいそうになる手をぐっと握りしめる。
夏休み。盆にもなれば、流石に部活も休みになる。 普段はあまり遊ぶことも出来へんし、5日ほどの休みを全部墓参りに費やす事もないし…と色々理由をとっつけて。夜まで図書館かなんかで一緒に勉強して、地元の祭りにでも行くかと名前を誘った…はずやった。
「信介、ここ教えて〜」
「…どこ?」
図書館よりも、家に来ない?という名前の提案に乗ったのが間違いやった。
ご両親は居らず2人きり、かのじょのへや。 いっつも男所帯におるから、余計にわかる女子のほんのりの甘い匂いに包まれて。夏やからそれなりに肌が出とる服装の名前に頭を抱える。半袖なんはええけど、せめて襟がしっかりしたやつを着てくれ…
唇はなんやぷるぷるしとるし、いつもとちゃう髪型がギャップ萌えいうんかわからんけど心臓にわるいし。
「あともう一個ね、ここも!」
肘にくっついた柔っこい感触があかんかった。
「…わかってやっとるんか?」
「わからないから聞いてるけど?」
ちゃうよ、そうやない。 あまりにも無防備すぎんか?っていう意味や。
「俺も男やし…大好きな彼女にそんな寄られたら色々あかんくなる、」
「その、えっと…?」
「意味、わかるやろ」
尋ねると名前はバツの悪そうにゆっくりと目を逸らした。鎖骨のあたりまで真っ赤で、照れとるのがわかる。骨、細いな。 伸ばしたい手を伸ばさんように、シャーペンを握り直す。
「わかったならええよ。」
問題を解くために参考書をめくりなおした、その手にーー名前の手が重ねられる。
「は、」
「わ、わざとだって言ったら…怒る?」
上目遣い、は見慣れているはずなのに、この状況でのそれは威力が強くて、熱い血が巡る。熱を冷まそうと長く息を吐いて、
「…目、閉じ」
唇を重ねると、やっぱり柔っこい感触がする。どこもかしこも柔らかくて、自分の硬い体が下手したら名前を怪我させてまうんやないかって、阿呆らしいけど思う。
どちらからかはわからんけど離れると、名前が俺の胸板に額を預ける。 顔は見えへん、それでも耳が赤くて。俺の服を掴む手がちょっと震えとって。
背中に手を回して、抱き寄せると肩が小さくて庇護欲みたいなもんが湧く。
「…きた、心臓の音すごい」
「人のこと言えんやろ。」
拗ねた口調の名前に思わず笑いが零れる。 好きやな、ほんまに。
「…もっかい、してもええ?」
「…なの?」
「なんて?」
「っ、許可制…なの?」
許可は要らんっちゅーことか。 頬に手を添わせて、顔を上げさせる。人差し指の先で耳朶をなぞると、名前が恥ずかしそうに目を伏せた。
さっきは緊張で気づかんかった、リップクリームの果物みたいな甘酸っぱい香り。
「名前が慣れるまでは、許可制でいこかな。…ええか?」
「う、ばか、」
「あかんの?」
潤む目が可愛くて、調子のりすぎたかもしらん。これ以上言ったら、拗ねさせてまうな。 そう思いながら黙って再び唇付けを落とすと、軽く下唇を挟まれる感触。
「意地悪するから、仕返し…」
名前からの甘噛みに、今度は俺が赤面させられる番やった。
「あかんわ、ほんまに…」
人一倍強いはずの理性が揺らぐ音と、心臓のこれまた煩い音が、2人きりの部屋で俺の中にだけ響いた。
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