かわええ fin.




気が付けば本当に寝てしまっていて、最寄りのバス停についた時には、薄暗い暮の空が広がっていた。
日曜日の夕方、人通りも少ない。

「よう寝とったな。」

「ぅ、ごめん、」

家まで送るわという言葉に甘えて、帰路につく。
風に北の匂いが運ばれて、私の鼻腔をくすぐる。繋いだ手と相まって、なんだかこそばゆい。

「…他に、何か言うときたい事無い?」

言っておきたいこと、あぁ…喧嘩を再開させようとしてくれてるのか。これが喧嘩って言っていいのかわからないけど。

「北は?」

「信介、な。…俺はそうやな、頼ってほしいかな。」

「頼る?」

「そう。練とか角名とかやのうて、相談は俺にしたらええのになって思う。」

相談って言っても、北の事だから大耳とか角名君にしてるのであって…!!

「俺に関する事なら、俺にしたら即解決やん。」

「…そうかな、」

「おん。」

なんだか、北に言われるとそれが正論な気がしてしまう。…あれ?やっぱり違くない?!

「…なんか、たまには喧嘩もええな。距離近なった気がする。」

「これ、喧嘩って言うの?」

さぁ、どうやろ?と北の顔が緩む。
その顔を見ていたら、喧嘩の定義なんてどうでも良くなってきてしまう。

「前、言うたやんか。ほら…相手に変わって貰おうと思うんは傲慢やって。」

「うん、」

「あれな、俺なりに甘やかしとるつもりやったんよ。俺が変わるから、名前はそんまんまで居ってくれたらそれでええっていう意味で。」

「…そういう意味だったの?」

「おん。」

繋いだ手を、北が口元へ導く。
すり、と頬擦りをされたかと思えば、はにかむ北の顔。いつもはキリッとした顔をしているけれど、こうやって笑うと童顔が幼さを増す。

「話し合うんも、大事やな。」

「うん。私も言いたい事いうから、北も言ってほしい。…なんでも話せるようになりたいし、」

北の言葉に、なぜかあの人の言葉を思い出して、少し拗ねたような口調で言ってしまう。
いいもん、私がこれからなんでも話せる相手になればいいだけだし…と心の中で自分に言い聞かせるけれど。
どないしたん、可愛ええけども、と北が言うのに喜んでしまう自分の単純さが憎い。

「あの人に、なんでも話せるって言ってたっていうの思い出した。」

「…覚えが無いなぁ。」

え、何?あの人の嘘?
混乱している私に、くっく、と北は喉を鳴らして笑う。ちょっとムカつくんだけど。

「ほんま、かわええな。」

「もう!ばか!!」

「馬鹿はあかんよ。言いたい事言えいうたんは名前やん。…俺がかわええって思ったらかわええって言うからな?」

「からかってるでしょ!?」

「かわええなぁ、ほんまに。」

「ちょっと!…ねぇ!!」

「ハハッ、かわええよ」

これ以上言っても無駄だと悟る頃、北が私の頭を一つ撫でた。

「仲直り、せぇへん?」

「…いいよ。」

「ふふ、有難うな。」

帰り道、繋ぐ手はさっきまでよりも強く。
二人の間は、柔らかい空気で包まれていた。




「仲直りできたん?おめでとう。」

翌日、朝練終わりの北と靴箱の前で挨拶を交わしていると。大耳がニヤニヤしながら言った。
後ろに続いていた角名君と、宮君達もニヤニヤしているから、私はぶっきらぼうに、どうも、と返す。

「はよ教室行き。」

北の鶴の一声で、足早に去っていく彼ら。
角名君だけが足を止めて、名前さん、と声をかけてきた。

「角名君、どうしたの?」

「弱点、一個だけ見つけました。ありがとうございます。」

「え?」

弱点…って北の?
静電気苦手なのバレたのかなと思っていると、角名君はオッホホと笑った。

「角名、訳わからん事言わんとはよ行き。」

「はい…じゃあ失礼します。」

角名君を見送り、北と歩く。

「名前さん…は、やっぱ妬けるわ」

「信介、かわええな?」

エセ関西弁でそう言うと、わしゃわしゃと髪を掻き混ぜられる。せっかく寝癖直したのに!

「あほ、揶揄いなや。」

心なしか北の耳が赤くて、少しバツの悪そうな顔に笑ってしまう。
学校だから、手は繋ぎはしないけれど、二人の距離は今までよりもずっと縮まっている気がした。








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