邪魔せんといてな.




セットを先取し、次のセットへ入って少しした頃、メンバーチェンジで北がコートへと入った。

そういえば、北が試合に出るのを見るのは初めてかもしれない。バレーをしている姿を見ることさえ、ほとんど無くて、体育の授業で見たくらいだ。
北がサービスラインに立つと、角名君や侑君が心なしか緊張しているように見える。

「信介がコート入ると、空気引き締まるなぁ」

彼女が呟いた。
同じバレーをしているものとして、何か感じる所があるのかな。サーブが決まって、始まっていくゲーム。素人目には、皆が上手いということくらいしかわからない。
北が相手のスパイクを拾うのに合わせて、彼女がナイスレシーブ!と叫ぶ。あんな凄く力強いスパイクを、いとも簡単に上げてしまう北を見て、私は息を飲む。

なんだか、知らない人みたい。

試合が近いとか後輩が喧しいとか、そんな話はした事があるけれど、北が私にバレーについて深く話したことは無い。角名君の「名前さん、バレー好きって訳でもないでしょ」という言葉を思い出す。私、バレーをしてる北について知ろうとしてなかったな。

どんどんと忙しく展開していくゲーム。
得点板に目を向ければ、点差はどんどん開いていて、
稲荷崎高校はあと少しでマッチポイントだ。

「名字さん、いっつも試合来とらんみたいやったから、今回も来んのやろなって思っとった。」

「えっと…?」

急に再びかけられた言葉。
確かに、試合を見に来たのは初めてだ。北がユニホームを貰ったのも3年に入ってからで、来て欲しいと言われたことも無かった。

「まぁ、どうでもえぇけど…あたしの告白、邪魔せんといてな?」

彼女の牽制に気圧され、コートに目線を移すと、試合は治君の強力なスパイクでゲームセットを迎えた。




試合と表彰式が終わって、皆が帰り始めた頃。北からの連絡が着信音を鳴らした。
すまん、ちょっと用事あるからロビーの自販機あるところらへんで待っといてほしい…という旨のメッセージ。用事なんてぼかさなくても、その用事の相手から牽制されてるし…とロビーへの道を歩きながら思う。

もう片付けも終わって、人はまばら。
勘を頼りに歩いたけれど、全く違うところに着いてしまったらしい。
わかるところまで引き返そう…と思ったその時だった。

「信介のことが好きや。恋愛感情として。」

聞こえた声に、反射で壁際へと隠れる。
そっと影から覗くと、北の後ろ姿と向かい合う彼女が居た。

「…俺には名字が居るから。」

「わかっとる…それでも、好きなんよ。ねぇ、あたしじゃあかんの?」

ふ、と溜息を一つ吐いて、彼女は続ける。

「名字さんのどこがええの?あたしの方が、信介の事見てきたし、ずっとずっと信介の事が好きやもん。」

「すま、「嫌や!」

待って…!!そう思った時には遅かった。二人の姿が重なり、音が消える。

ーー少しして、北が彼女の肩を押した。二人の距離が元に戻るのを見たけれど、私の足は竦んでしまって。
せめて座り込んでしまわないように、壁についた手に力を入れた。

「ねぇ、信介お願い…あたしを選んで。」

肩に置いた手を、彼女が握って言った。
どうしよう、北が彼女を選んでしまったら。
そう思ったら気付けば、駆け出していた。






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