関係ないことやと….




四人揃って歩く道、歩道は横並びできる程広くは無いから、二つに分かれて並ぶ。

「…大丈夫?」

私の隣を歩くのは彼氏の北ではなく、角名君だ。
背筋を縮めて私の表情を窺い、声をかけると、「な訳ないですね」と低く呟いた。

そうだよ、大丈夫な訳無い。
肩先がぶつかりそうな距離感、身長差があまり無いせいで近い顔。不快、なんてあまり人に対して思ったことは無いけれど、快くは無いから今の気持ちは不快に当てはまるんだろう。

角名君が立ち止まり、二人には聞こえないような声で言った。

「俺、あの人連れて帰りましょうか?」

「…いや、いいよ。」

北とあの子は、私たちが立ち止まった事に気がつかなかった。このまま、私が別の道を使って帰っても気がつかないんじゃないかとさえ思えてくる。

「あ、雨」

額に一粒。それを皮切りに、パラパラと雨が降り始めた。

「うわ、名前さん傘持ってます?」

「折り傘持ってる、広げるね!」

北は持っていた普通の傘をすでに広げていた。
私も慌てて傘を広げる。角名君は傘を持っていないようで、とりあえず私の傘に。
身長差から必然的に持ってもらうことになったけれど、ピンクのドッド柄だから男の子に持たせるのは少し申し訳ない気がした。

「信介、ごめん入れて!」

彼女は軽やかにそう言うと、北の傘に入って行った。
そこをすかさず、角名君が「先輩、名前さんと場所変わりませんか?」と呼びかける。

「…なんで?」

「カップルの下校デート、お互い邪魔しちゃってる身ですし。俺も部活の主将の彼女さんとこうやって一つ傘の下ってちょっと気が引けちゃうんで。」

彼女の疑問に、角名君は思っても無いだろうに、自分が気が引けるからと言い放つ。

「そっか、せやな!ごめんね名字さん!」

「ううん、大丈夫だよ。」

ごめんね、と言われればそうやって言わざるを得ない。口角を上げて、なんでもないようにそう言う。

「ごめんやけど、このままでもええかな?次の大会に向けて、もう少し話したくて…!」

両手を合わせて言う彼女に、ぷつんと何かが切れる音がして、結局通学路が分かれるまで私は角名君と同じ傘の下で歩いた。



「傘、ありがとうございます。」

「ううん、返すのはいつでもいいから。またね、倫君。」

私の傘を彼女と一緒の方向へ帰る角名君に渡して、別れる。北の傘に入ると、甘いシーブリーズの匂いがして胸がムカついた。

「…角名とほんまに、仲ええんやな。アイツ、あんまり先輩に懐きたがらんから、なんか珍しいもん見た気分やわ。」

「倫君が気を使ってくれて話合わせてくれるからだとは思うけど…仲良いの、かな。」

北が持ち出した話に、わざとらしく返事をした。倫君、なんて北の前でしか呼ばないのに。

「名前で呼ぶくらいにはええんとちゃう?」

それが北に伝わったのか、北の声音は固かった。

「…なんか刺々しくない?言い方、」

「そうか?」

「名前で呼ぶくらいって…北と女バレの主将だってそうじゃん。」

あぁ、もうだめだ。私に許容範囲を広げるなんて、無理だった。自分の口をついて出た言葉を悔いてももう遅い。

「…まぁ、そうかもしれんな。」

「今日だって、積もる話があったみたいだね」

なんて嫌味っぽいんだろう。
堰を切って出た私の言葉の方が刺々しかった。

「大会近いし、練習メニューとか応援についてとか色々あるやろ。」

「…それ、今必要だった?」

もう引き返せない、頭はどこか冷静なのに目元は熱い。そっぽむいて言ったけれど、北は答えなかった。

「倫君に聞いたけど、一緒に帰ったりしてるんだってね。私が待ってるのは嫌がるくせに。」

「嫌がっては…」

「なんで言ってくれなかったの?」

「別に名字には関係ないことやと…」

関係ないーーその言葉が、思ったよりも胸に刺さった。

「私、走って帰るから」

角名君達の背中が遠のいて、そう言い走り出そうとすると北に腕を掴まれた。そのまま、傘の中に引き入れられてしまう。男女差だけじゃなくて、スポーツをしているかどうかの差だってある。振り切ろうとしてもそれは叶わない。

「今、一緒に居たくない。」

「じゃあ、俺が走って帰る。」

「待っ…!」

私に傘を無理やり押し付けて、北は走って行ってしまった。
さっきまでよりも強まった雨脚。
一人で差す傘の下、その雨音だけが響いていた。






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