癪なことに.




最初は、意味のわかんねー女だった。
正直今もそうだが、最初はもっと。

「爆豪君、ですか?」

俺が拉致されたことが原因で、雄英は全寮制になり、他科からは鬱陶しい視線を向けられていた時期だった。

「なんだ、テメェは。」

「私、経営科名字 名前と言います。課題が出てて、貴方を取材したいと思ってるんですけど!」

「あぁ?モブの暇つぶしに付き合うほど暇じゃねーんだわ。消えろ。」

軽く凄めば、大体のやつがこの辺で去っていく。
経験則から知っている常識は、名字名前には通じなかった。

「私はどうしても爆豪君がいいんです!」

「テメェも野次馬か?」

消えろ、ともう一度口にしたが、この女は一歩も動かなかった。

「…この間の誘拐のこと言ってるの?野次馬になるほど興味無いよ。ムカつきはするけど。」

「は?」

そこで、意味のわかんねー女だと思った。

「そういえば、体育祭、一位だったね。」

「あんなの一位とは言わねぇ。俺が目指すのは完膚なきまでの一位だ。」

たしかに、と女は笑った。

「大体の人は「ヒーローらしくない」とか、「あんなやつが、」とか言ってた。その功績よりもネガティブな部分に目を向けて。誘拐されたら「ヒーロー科のくせに」「あんなやつだからだ」…何様?って気持ちになる。」

「ッケ、同情かよ。」

同情なんて鬱陶しいもんは要らねぇ。
背を向けて歩き出そうとすれば、女はお構いなしと言ったように続ける。

「同情とかじゃないよ、世論にムカついてるだけ!ヒーローが成り立たせてる平和に胡座かいて、好き勝手いうやつが嫌なの。」

早めた歩調が、その言葉にほんの一瞬だけ緩んだ。

「ねぇ、私は単純に良い作品が撮りたい。どうせ撮るなら、爆豪君みたいなイメージ最悪の人がいい。」

「だぁれが…イメージ最悪だって…?」

「私にイメージ左右されるの、怖い?」

「怖くねぇわ!!」

「じゃあ決まりだね!」

それから名字は俺にくっついてまわるわ、盗撮しやがるわ、変態発言かますわ、やりたい放題だった。
放置していたらいつの間にか絆されて、退屈はしねぇからいいかと思うようになっていった。

まっすぐな言葉とか、ぶっ飛んだ思考とか、俺とは全く違った夢とか。俺が持ってないものを持っている。癪だが、そんなところに惹かれたのかもしれない。

「勝己君、お願いがあるんですけど…」

「却下。」

「よろしければ、写真を!また撮らせてください!」

「却下。テメェ、先週盗撮したのバレてっからな。」

「だからデータが無いと思ってたんだ!消したでしょ!?」

こんなとこを見ると、惹かれてしまったのは本当に癪だが。
まぁ、こいつの相手を出来るのは俺くらいだと思うことにする。






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