センチメンタルポエミー.
今までは想いを告げることなく、いつのまにか好きだという気持ちが薄れて、終わっていった片思い。
…強制終了した恋心はどこに行くんだろ。
しっかりと心のど真ん中に居座っているくせに行き場がない気持ちが、ずんと重たい。
今まで、どんなに勝己君に罵られても喜べていたあの図太さはどこにいったんだろう。
その場所を教えてくれれば、この恋心の行き場も見つかるのに。
重たい気持ちを友達に悟られるのは、気を使わせてしまうのが申し訳ないし…くだらないプライドが見栄を張らせて。
なんともなかったかのように過ごした一日は、いつもより長く感じた。
いや、なんともなかったように…なんて無理だった。
さっき、A組の人たちとすれ違ったことを思い出す。
「お、名字じゃん!久しぶり!!」
「ほんとだ、おっす。」
「よぉ!」
手を振ってきたのは、切島君と、瀬呂君、上鳴君。
その4人の中には、当然…勝己君も。
「久しぶり〜…」
へらっと笑ってみせた。
勝己君の赤い目は、私と合わない。
あの瞳の中に、簡単に映れてたのはそう昔じゃないはずなのに。
4人の背中を見送って、無理してあげていた口角が震えた。
「待たせて、悪かったね。」
「5分待った。」
そういえば、勝己君と待ち合わせしたことあったな。
私が早く来すぎたとはいえ、勝己君はこんな風に謝ったりしなかった。
「…どうしたの、相変わらず酷い面してるね。」
ハンッと挑発するような言葉。
仮にも好きな子に向けるやつじゃない。
「むかつく…」
「奇遇だね、僕もだよ。ねぇ名前。あと2日だけど…、進捗はどうだい?」
あぁ、金曜日だ。
物間からの提案による一週間の終わりが近づいていることに気づく。
この日まで、おフランス趣味の物間のアプローチは、周りにも見てとれるくらいだった。
今日だって、寮までの少しの道を送ってくれる。
「…どうなんだろ。」
もう勝己君には、振られてしまったも同然で。
このまま、流されるように物間と付き合ってもいいのかもしれない。
物間と付き合う女の子は、絶対に幸せになれるだろうな。こんなにエスコートが上手で、不器用だけど優しい。
「ふーん…」
物間は、私の微妙な回答に訝しげに相槌を打ったかと思えば。
私の頬に手を滑らせて、目尻に親指を当てた。
「爆豪の事は、もういいの?」
「…もう、どうもできないし。」
昨日少し擦ったせいか物間が触れる所に、ヒリッとした軽い痛みが走る。
「あんなに爆豪にしか目が無かったのに。僕のアプローチも無駄じゃなかったって事かな。」
そう言いながら、鼻で笑って続けた。
「まぁ、爆豪のどこがいいのか、僕には理解できそうに無かったからね。…強い個性に依存した、不遜な態度。同じヒーロー志望として、恥ずかしくて仕方がないよ。平和の象徴を終わらせておいてーー」
物間の口元に手を当てて。言葉の先は塞いだ。
ほとんど無意識に動いていた手に、驚いて。
すぐに手を離した。
「…なに?爆豪の事は、もういいんじゃなかったの?」
「わかんない…」
だって、自分が一番びっくりしてる。
「ひっどい顔。」
改めて、物間が親指で私の目尻をなぞる。
ゆがんだ弧を描いた口角と霞んだ色を浮かべる瞳。
…物間の方がひっどい顔してる。
さっきまでの私みたい。
そんな傷ついたみたいな顔するの、いや私がさせてるのか。
「…押しに弱い君が、流されればいいと思ってた。でも、そんな顔してる名前がほしい訳じゃない。」
勝己君とは正反対な、青。
澄んだそれに夕焼けが映って、屈曲した不器用な優しさが溶けているような気がした。
「僕は、プライドが高いんだ。」
「痛っ!!」
ひっぱられた頬をかばうように身を捩ると、青色は見えなくなった。
「ほんっとにさ、その面どうにかしてきてよね。その面で僕と付き合うって言われても、嬉しくないから。」
早足に歩きだした背中に、追いつかないように付いていく。
何気なく空を見上げてみれば。
青と赤が混じり合う空模様と、自分の気持ちが似てるような気がして、手で作ったフレームでシャッターを切る。
青か赤か。
私の気持ちはどっちに晴れて行くんだろう。
ちょっとポエミーな気持ちも、今くらいは許してほしい。
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