弱虫の知らせ.
「あんたさ、爆豪のことはどうなったの?」
ここ数日は物間とばかり居て、あっちゃんとご飯を食べるのは久しぶりだった。
開口1番のセリフ。「いただきます」が先なんじゃないの、と思いながら手を合わせて、購買で買ったパンを齧る。
「一緒に出掛けたと思ったら物間と帰ってきて。そこから物間とべったり。どういうこと?」
寮にいる時間も、物間とのメールや電話で、中々あっちゃんと話す時間が取れずに居た。
あっちゃんも言いたい事が色々溜まっているようで、ヒーロー科は演習の為に、昼から校舎を出ている今日。屋上に呼び出された。
「あっちゃん、よく屋上の鍵持ってたね。」
「発目さんに作って貰ったからね。こら、話を逸らそうとしない。」
発目さんって…何者?
そう思いながらも、あっちゃんの真っ直ぐな目線から逃げられないことを悟った。
仕方なく事情を話すと、あっちゃんは少し考え込んだ。
「なるほどね。大体の事情はわかったけど…名前って、本当にお人好しよね。押しに弱いっていうか…」
「確かに推しには弱いかも。貢ぎたくなっちゃう。」
お人好しっていうか、ただ流されやすいんだと思う。
なんとなく後ろめたくてふざけた。
「ふざけない。」
「…はい。」
「物間のこと、好きになりそう?」
物間のことは、好きか嫌いかと言われたら、好きだ。
でも、流されて付き合うのは違うとは思ってて。
答えを出せずにいると、眉間にあっちゃんの手が触れた。
「悩みすぎ。言い方かえるわね。…爆豪のことは、どう思ってる?」
勝己君のこと…。
脳裏に赤い瞳がよぎる。実は、最近見られている事には気付いていた。
視線に気づかないほど、私は鈍くはない。
あの視線に、どんな意味があるのか。
今までの行動に、どんな意味があるのか。
知りたい。
「わからないことを、そのままにしてるからダメなんだよね。」
説明聞いて出来る能力持っとんだから、ちゃんと授業聞いとけ!
いつかの勝己君の怒号を思い出す。
「私、勝己君のこと知りたい。聞いてわかる頭は持ってるみたいだから。」
ふふ、と漏れた私の笑い声に、あっちゃんは、「なにそれ。」と眉をしかめた。
連絡が来ることなんてあんまり無いのに、勝手に「お気に入り」のフォルダにいれてある勝己君のLINE。
きっと自主練なんかで忙しいだろうから、という気持ち半分、弱虫な気持ちが半分で、連絡しようと決意したら、もう夜の9時くらいになっていた。
メッセージだったら、語彙力の無い私にはうまく伝えられるか不安だから。
通話ボタンを押す。
「っ、もしもし、」
呼び出し音が途切れて、通話が繋がったことがわかった。無言だけれど、僅かに布が擦れる音がして、変に焦る。
「勝己君…?」
「…用件は。」
無愛想な言い方。前までなら怖いなんて思った事はなかったのに、指先が震えてしまう。
「あの、この間…途中で帰っちゃってごめん。」
「ッハ、今更かよ。」
それに関しては完全に同意だ。
勝己君が私の事をなんとも思っていないという現実を突きつけられてから。
なんとなく連絡しづらかったとはいえ、謝るには遅すぎるくらいだ。
「そんだけなら切る。」
「ま、待って!聞きたいことがあるから!」
「は?」
「…勝己君は、私のことどう思ってるのか、知りたい。なんで見てくるの、なんで一緒に出かけてくれたりするの?…勝己君の気持ちがわかんないから、教えてほしい。」
唐突な私の問いに、しばらく無言が続いた。
「モブが物真似ヤローと付き合って浮かれてんのが目障りだっただけだし、誘ったのは俺の都合だ。」
深い呆れたようなため息続く。
「…お前が何を期待しとんのか知らねーが。ただのモブとしか思ってねぇ。…勘違いすんなや。」
あぁ、なんで勘違いしてたんだろう。
ただの思い上がりが恥ずかしくて、なんとも思われていない事実が苦しくて。
「っ、ごめんね、ありがとう。」
通話終了ボタンを押したら、涙と諦念が頬を伝った。
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