なぜなぜ期.
「名字さん、B組の子が来てるよ?」
準備も終わり登校しようとした矢先、いつも通りの朝が、全く違う朝になった。
寮の玄関先に出ると、物間の姿。
昨日の今日だから気まずい。
茶化すクラスメイトを傍目に、物間は「遅い。」とぼやきながら、手を差し出してきた。
「私お金持ってないよ!?」
「…君にはヒーロー志望がカツアゲするように見えるワケ?違うよ。荷物。」
意図が読めず首をかしげると、物間が私のバックを手にとった。
「そ、そんくらい自分で持つよ!」
「重そうにしてただろ。」
私がいる反対側の手に持ち変えられてしまって、言われるがままにそのまま歩く。
今日は分厚い経済関係の本も何冊か入っているから重いはずなのに、物間は軽々と持ち上げてしまった。
「…ありがと。」
結局、教室まで送られてしまった。
「昼、一緒に食べたいんだけど。どう?」
「えっと…」
「考えといて。他に約束あるなら、無理強いはしないから。」
背を向けて、自分のクラスへと向かう姿を見送る。
クラスメイトの興味深々な視線に耐えながら席に着くと、何人かが寄ってきた。
もちろん、あっちゃんもニヤニヤしながら隣の席に座っている。
「名前…物間と付き合ってんの?」
「違うよ!まだ付き合ってはないから!」
「まだって事は、告白とかされたのっ!?」
墓穴を掘ってしまった。埋まりたい。
反応で気付かれたようで、女子達は「将来有望じゃん!」とか、「顔イケメンだよね!」「爆豪はどうした」とか盛り上がっている。
なんか、アレだ。逃げ場がない…背水の陣ってやつ?
「背水の陣…」
「それを言うなら四面楚歌。」
あっちゃんから手刀をくらった。痛い。
チャイムが鳴り、皆わらわらと席へ戻っていく。
ホームルームか終わり、そのまま担任は授業を始めた。進度が他のクラスに追いついてないらしい。
ぼんやりと窓の外を眺めると、グラウンドにヒーロー科の姿が見えた。
A組かな。緑谷くんがいる。
目線はすぐに動いた。石灰のせいで白っぽいグラウンド。同系色の髪色は、あまり目立たない。
でも、視線は導かれたみたいに勝己君を捉えた。
隣にいるのは麗日さんかな…あ。
麗日さんの手が、勝己君の頭に伸びる。
髪にのった葉かなにかをとったみたいなのは分かったけれど、自分の中でフツフツとなにかが湧いてくるのがわかった。
…昨日隣にいたのは私なのに。
同じヒーロー科。かわいくて女の子らしいのに、強くて対等。そんな立場が羨ましくて仕方ない。
なんでかわからないけど、体育祭で2人が戦った試合が頭に浮かんだ。
いくら好きでも、私はあんな風に勝己君の視界に入れることはない。
「いいなぁ…。」
羨ましく思うのと同時に、こんなしょうもない事を思う自分が嫌になった。
なんで物間は、こんな私のことが好きだって言うんだろう。顔も個性も、優れている訳じゃないし。
こんなしょうもない嫉妬だってする。
今日の昼休みに聞いてみようかな、なんて思った。
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