〇〇だけでいいからってのは大体嘘.
指定通りの時間よりも、四半時ほど早く着いてしまった。あっちゃんにトータルコーディネートしてもらった服は、思ったよりも大人っぽくて、いつもより少し背伸びをしてる気分になる。
私服ではあまり着ないスカートだし、髪の毛も緩く巻かれたポニーテールだし、いつもは履かないようなヒールだし…なんか、気合入りすぎてないかな…?
いや、大丈夫なはず。
寮から出る時にクラスの男子達から、名字がいい女に見える!変態はどこへ行った!とか言われたし。
ん?前者は褒めてるけど後者は貶してない?
緊張しすぎてツッコミ忘れた!
「来んのはえーんだよ。」
一人で自分の失態を後悔していると、勝己君が現れた。黒を基調としたシンプルな服がよく似合っている。勝己君の私服…!眼福!!
思わず個性を発動し、パシャっと一枚撮ると勝己君からその写真を没収された。
いいもん、バックアップあるから。
「…おい、行くぞ変態。」
「…うん、」
勝己君が歩を進める。
ゆっくりな歩調に違和感を感じた。いつもなら、もう少し歩幅を大きめに取らなくちゃ追いつけないのに。
「勝己君、歩くの遅くない?」
口をついて出た言葉に、思いっきり舌打ちされた。
なんで!?
「もしかして、訓練で足痛めてたりする?」
「んなヘマするか!!靴擦れしてぇなら倍速にし殺したるわ!!」
もしかして、気を遣ってくれたのかと勘違いしそうになる。女の子の靴とか、気にしてくれるタイプなの…?
解釈違い!
だがそれがいい!!
一人で興奮している私には目もくれず、勝己君はそのままの歩幅で、半歩だけ前を歩いた。
街の方に降りて、夏頃にできたというショッピングモールが目的地だったらしい。
先程まで前を歩いていた勝己君が、エスカレーターに乗るときには私の後ろに乗る。
…少女漫画とかで見るやつ??
もしかしてこれ、スカートの中身が下から見えないように後ろに立ってくれるやつ!?
「スパダリなの…?」
「ァア”?…おい、着いたぞ。」
勝己君が顎で差す先には、ピンクを基調としたカラフルな…なんというか、映えって感じのお店。
勝己君はお店に入ると、食券のようなものを買った。
そういうシステムなんだ…。
「買った。」
財布を出そうとすると、券を差し出される。
「え、悪いからいいよ!」
「細けぇのなかったから崩したんだわ。お前の為じゃねえ。」
お金を出すが、スルーされた。
「ありがとう…?」
押しつけられた券を手に、そのまま店内に入っていく勝己君を追いかける。店内は女の子ばっかりだった。
色とりどりのケーキが、ショーケースに並んでいる。
「…やっぱ、ここ、スイパラ…だよね?勝己君甘いの好きだっけ?」
「激辛フェアやってっからだ。」
そう言って勝己君は、さっさと荷物を置き、お店の奥へ消えていった。
私もケーキを取り行き、戻ってくると、真っ赤なワンプレートと勝己君が席で待っていた。
「うわぁあぁーー…。ゲテモノ…。」
辛い通り越して痛そう。丸ごと唐辛子の姿も見える。
ここのスイパラ迷走してない…?
「かっちゃん、そいつはねぇぜ…」
「キメェわ、やめろ。」
勝己君は、バクバクと箸を進めて、最終的にはサイドメニューの真っ赤な激辛スープまで飲み干してしまった。私もいつもなら食べないくらいのケーキを食べ終えて、お腹が一杯だ。
「この後、予定あんのか?」
「いや、今日は勝己君との予定だけだよ?」
「じゃあ買い物付き合え。」
その一言でお腹が膨れるにつれて、解れてきた緊張が
一気に蘇った。
勝己君との貴重なお出かけが、ご飯だけでおしまいではないことに、頬が緩みそうになるのをぐっと耐える。ドキドキするのに嬉しいのが、恋をしている証明みたいに思えた。
登山のウェアが見たいという勝己君の要望に従い、並んで歩く。
もしも勝己君と…もしもだけれどお付き合い出来たなら、こんな感じなのかな。
なんて、甘やかな想像が浮かんでしまう。
「登山好きなの?」
なんとかその想像を打ち消すためにも、勝己君に話しかける。
「嫌いじゃねえ。」
勝己君の「嫌いじゃねぇ」は好きだってことだ。軽く上がった口角がその証拠。
「なんか、うん。好きそう。」
一歩一歩、目標に向かって登る感じとか。
勝己君に合ってるんだろうなぁ。
あと、頂上で下界を見下ろしながら、「フハハハハ!まるで人間がゴミのようだっ!!」とか…言いはしないけど思ってそう。
横顔を覗きみると、ばちっと目が合った。
あ、やばい。
「…ンだよ。」
何か用件があると思ったのか勝己君が、少し不服そうに尋ねた。当然、ム◯カ大佐みたいとか思ってましたなんて言えない。
なんか…話題!
「えっと…テスト勉強のお礼何がいい?」
「ァア?」
ぽかん、という擬音がつきそうな顔をして勝己君はこっちを見た。
いや、言葉の意味のまんまなんだけど…?
「あ”ー…スイパラ、付き合っただろ。それでいい。」
「スイパラって言葉似合わない大賞グランプリ…」
「うっせぇ。」
なんか勝己君優しい!解釈違いだよ!?
しかも今ちょっと笑ったよね?ね?
どこの勝己君!?爆豪の勝己君じゃないよ!
多分これはあれだ、爆発さん太郎だ。
そう思った刹那、勝己君の手が私の頭に伸びる。
「いった!!ちょ、痛い痛い痛い!!なんで!?」
「爆発さん太郎とかなんとか…テメェは全部口に出とんだわ。」
そのまま勝己君は緩やかに力を込めていく。
手加減してるのはわかるけど、てか手加減してなかったら私の頭部は無くなってるだろうけどっ!普通に痛い!!
急に力が緩められたのがわかった。
痛みに耐えるためにぐっと瞑っていた目を開ける。
「白昼堂々、暴力は頂けないな…って、あれあれぇ?A組の爆豪じゃないかぁ…あまりにこわーい敵顔だから、てっきり彼女にDVする男かと思ったよ。」
「だれがDV男だァ…?」
こめかみに青筋が走らせる勝己君の腕を、掴んでいるのは物間だった。
「え、なんでここにいるの?」
「僕も買い物くらいするさ。」
そう言いながら、物間は掴んでいた腕を勢いよく手を離した。
そのままその手を私の肩に回して、私はいとも簡単に引き寄せられる。
ちょっと待って!?何この体制!!
慣れないヒールのせいで、ぐらついた足では離れることもできない。
ちょっと周りからの目も痛いし!
「ねぇ、爆豪。名字の事、借りてもいいかい?」
勝己君はただ睨むだけで答えなかった。
「別に、君が名字のことを何とも思ってないなら、いいだろ?」
「ッチ、…勝手にしろや。」
そのまま手を引かれて歩きだした。
何とも思ってない、のか…と今まで勝手に膨らんでいた気持ちが、萎んでいくのを感じた。
物間が何か話しかけてるのはわかったけれど、生返事になってしまう。
ショッピングモールを出て少しした時、突然物間が立ち止まった。
「邪魔して、…ごめん。」
バツの悪そうな顔。
いつも嫌味ばかりを紡ぐ口が謝罪をするなんて、出会ってから初めてのことだ。
「…物間のばか。」
「自分で思ってるよ!…あ”ー…名字の事だと、全然余裕なんか無い自分が嫌になる…。」
くしゃり、と前髪を掻きながら羞恥が混ざる瞳の色は、なんだか熱がこもっていて、その熱がうつったみたいに私も熱を持つ。
私が好きなのは、勝己君なのに。
「ねぇ、君のことが好きなんだけど。」
まっすぐな視線に射抜かれる。
返事をしようとすると、やたらと形の良い人差し指が、私の唇を押さえた。
「一週間でいいから。一週間だけ、僕のこと考えてよ。…僕をそういう対象で見て。」
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