いつのまにか.
「お腹すいた…。」
今日はパスタの気分。食券を買って並んでいると、前で「激辛坦々麺、一つ。」という聞き覚えのある声。
勝己君だ。
「パスタお願いしまーす。」
「はいよ!お待たせ!」
ランチラッシュは素早くて且つおいしいから、お昼ご飯の時間になると、雄英に来てよかったと実感する。
テーブルの上にあるタバスコに手をかけると、他の人の手とぶつかった。
「あ、すみませ…勝己君だ!」
「ァア?変態女じゃねーか。」
物を取ろうとして、手が重なるとか運命じゃん!
少女漫画じゃん!
「これが…恋のはじまり?」
「きっしょ。頭の中花咲いてんじゃねーの。」
「それならきっと、咲いてるのは真紅の薔薇だね!勝己君イメージの!」
「死ね。」
勝己君に会ったの久しぶりだから、ついテンションが上がる。
ちなみに、真紅の薔薇の花言葉は情熱!つまり!勝己君のヒーローへの情熱溢れる姿と重なるの!
きっと私の頭の中は真紅の薔薇咲き誇ってるはず!
はぁ、尊い。
「名前ー、あんた戻っておいでー」
あっちゃんの声で現実に引き戻される。
危ない、トんでた…!
パスタを持って、あっちゃんのもとへ行こうとすると、突然首根っこを掴まれた。
「おい、こいつ貸せ。」
「え?」
「もー、待ってたのにー。名前今度奢りだからね。」
「え?」
週刊少年ジャンプみたいに軽々と貸し借りするものだつけ、私。
ヤングジャンプは貸すのにちょっと抵抗あるけど、週刊少年ジャンプなら簡単に貸せる気持ちわかる人いないかな。単行本派の人が多いかもなぁ。
「トロトロすんなや!来い。」
誘拐犯みたいな口調の勝己君についていく。窓際の席は、秋めいた隙間風のせいでちょっぴり寒い。
いただきます、と食事に手をつけると勝己君も、引くほど真っ赤な坦々麺を食べ始めた。
七味までならわかるけど、タバスコもなんて…塩分過多じゃない?
「ジロジロ見んじゃねぇ!食え!」
「あ、はい。」
推しとご飯とか、見ない訳ないじゃん。
心の中で文句をいいながら、パスタを巻いていると、勝己君はもう食べ終えたようで、こっちをじっと見ていた。
「なーにー?」
「…変態女、お前、ものまね野郎とどういう関係だ?」
「ん!?あー、ものまね野郎…って物間か。中学が一緒だよ。」
ドキッと心臓が跳ねた。
勝己君と物間、なんかあるの?
確か体育祭の時には絡んでたけど、その後の交流はないと思う。
どういう意図があるんだろうと表情を伺ってみるけど、勝己君はいつもの仏頂面だ。
「付き合っとんじゃないんか。」
ブッ、と思わず口に含んでいたパスタの切れ端が皿にリターンする。
一瞥し、勝己君が汚ねぇ!と声を荒げた。
「えっっ!付き合ってないよ!なんで!?」
前のめりになって聞くけど、そこは無視される。
「じゃあさ、勝己君は、付き合った事とかある?」
「ある。」
付き合った事、あるのか。
…まぁ勝己君モテそうだもんな。
勝己君は、彼女っていう唯一の存在に、どんな風に接するんだろう。あんまり見せない笑顔を、見せたりするのかな。優しい声音で話しかけるのかな。
あ、なんか…
「…やだ。」
「あ?」
口に出ていたようで、焦る。
勝己君の、彼女に妬いている自分がいる。
推し感情なんかじゃない。
いつの間にか、『恋』に変わっていた。
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