おいしくなーれ.




「遅いよ、名前。もうすぐだよ!」

「ごめんあっちゃん。」

控室に入ると、みんな綺麗だし、衣装もドレスで一人だけ浮いてるのがわかった。
拳藤さん、めっちゃかわいい!シンプルなドレスだからスタイルの良さが映えるなあ。

「ねぇねぇ、なんで猫耳なの?メイドさんも珍しいね!どうして?」

「波動先輩!」

待って、めちゃくちゃ美人!
陶器肌だし、髪の毛さらっさらじゃん!

「ねぇ、なんでストールしてるの?ふしぎ〜!メイド服と色があってないよね?あ、1年の劇で見たかも!おそろいなの?」

物間のストールに触れられて、さっきの抱き留められたシーンがフラッシュバックした。

「あ、えっと友達が貸してくれて、」

「こら、ねじれ!1年困らせないの。」

ショートヘアの先輩に引きずられて、先輩は離れていく。丁度、ミスコンも始まるらしく、SDカードを改めてセットした。

「よし、がんばりますか。」

無理やりとはいえ、みんなが頑張って準備してくれたんだし、パフォーマンスはまっとうしたい。
ステージ上では、さっそく最初の人のパフォーマンスが始まったらしく、歓声があがっていた。

「続きまして、1年経営科!名字 名前!」

ステージに上がると、思いの外、人が多くてびびる。
すみません、一人だけ場違いで!って気持ちだ。
「メイドだー!!」って峰田君ぶれないなぁ…なんて思いながら、手で円をつくって、バックの壁に投影する。

すると、どこかの宮殿をイメージした映像が壁を彩りはじめた。最初は金色のモチーフから、銀、青、紫、ピンク、赤…と色や形か変わっていく。

「すげぇ!プロジェクションマッピングだ!」

「きれー!あ、色変わった!」

これぞ経営科の本気。
私の個性をこんな風に使うなんて思いもよらなかった。
投影しながら、皆がどれだけ力を注いだかがわかって、ジーンとした気持ちになった。

最後に、壁が黄色一色になって、宮殿を包んでいく。大きなオムライスが投影された。
ここで、鈴木君直伝のセリフをいわなきゃだ!
すっごく嫌だけど!

「おいしくなーれ!萌え萌えきゅーん!」

少しの沈黙の後、笑い声と拍手が鳴り響いて、私のパフォーマンスは幕を閉じた。


「よかったじゃん、パフォーマンス。ウケてたよ。」

「一瞬静まり返ったじゃん!」

「いや、ウケてたって。さすが鈴木だね。」

「あっちゃんも鈴木君もおもしろがってんじゃん!」

あっちゃんの影にかくれて笑ってんの見えてるんだからな!

「確かにおもしろがってるけど、名字さんにしかできないパフォーマンスだったよ。僕ら経営科は派手な個性持ってるやつなんてほとんどいない。でも、こんなことできるんだぞって知らしめることができたから、気分がいいよ。」

そう言う鈴木君は、無個性だったことを思い出して、なんだかすごく心に響いた。
ヒーロー科に比べると、すごく地味なカメラという私の個性。
でも、そんな個性でも悪くないななんて改めて思った。



着替えはミスコンの投票時間が終わるまでお預けにされた。解せぬ。
ストールで、出来るだけ服を隠しながら控室を後にすると、ステージ上で「拳藤に清き複数票をー!」と叫んでる物間がいた。
アホだ。さっき少しキュンとしたのは気の迷いだったわ。

あっちゃんはサポート科との出し物があるから、一人で文化祭を回る。友達がいないわけじゃないから!
みんな忙しいだけだから!

「あー!ミスコンのメイドさんだー!」

「近くで見るとそんなに美人じゃないけど、結構良いじゃん。俺、タイプかも!」

「1年かー、若いなぁ。」

歩いていると、雄英の制服を着た男子達に囲まれた。
普通科か。多分先輩だろうな。
相手の個性もわからないし、邪険に扱って問題が起きたら嫌だな。

「あははーこんにちはー。投票お願いしますねー。」

貼り付けた笑顔で、そう答えて逃げようとすると、肩を掴まれた。

「投票するからさー、一緒に回ろうよ。ね?」

「約束あるんで、すみませーん」

「じゃあ約束の時間まででいいからさ!」

結構しつこいな。自分の顔鏡で見てからにしてほしい。勝己君よりもイケメンだったら許すけど!
肩痛いし!掴むな!

「おい、名字。テメェ、俺との約束はどうした。」

「勝己君!?」

振り返ると、勝己君がいた。
先輩達も勝己君の姿に気づくと、肩の手を離す。

「やべ、爆豪じゃん。」

「体育祭1位のやつだよな…やば。」

そのまま勝己君は、私の手を引いて歩き出す。
待って!展開についていけないってば!
ちょうど、脈がわかるところを掴まれてるから、鼓動がバレてるだろうし、焦って手汗がやばい。

私の手首を掴んだ手は、振り払おうと思えば振り払えるくらいの力で、さっきの先輩とは大違いだ。
そんな所にも勝己君の優しさを感じて、もっと鼓動が早くなる。

「あの!もう、ここら辺でいいんじゃないかな!さっきの先輩達いないしさっ!あの、助けてくれてありがとね!」

立ち去ろうとする私を止めるように、勝己君が手に力を込めた。

「…着替えは。」

「え、あー、ミスコンの投票終わるまで没収されてるの。宣伝も兼ねてって感じ!」

「忙しいっつーのはそれか。」

「う、うん、そうだね。」

淡々と聞いてくる勝己君はちょっと耐性がないから困る。うまく自分の変態味をだせないし。煽れない。

忙しいという嘘をついたこともあり、少し後ろめたい気持ちから、目を逸らす。
すると、ストールを引っ張られた。
ちょっと!びっくりしたよ!

「これ、B組の劇のだろ。なんでお前が着とんだ。」

「物間が、この格好目立つからって貸してくれた。」

「ッチ…気にくわねぇ。脱げ」

「え、やだよ!目立つじゃん!」

「いいから脱げっつってんだろーが。」

勝己君の脱げというお言葉。
低音ハスキーな声でそんなこと言われて脱がない女とかいない。
お母さん、私大人になります…!

ストールを外して、畳んでいると、勝己君が自分のブレザーを脱いだ。

「なんで脱ぐの!勝己君えっち!」

「アァア!?キメェわ!これ着ろってことだろーが!察しろ!」

勝己君がブチ切れながらブレザーを差し出す。
シワ一つないそれを自分が着るなんて、おこがましすぎる!
どうしていいかわからず、ブレザーを眺めていると盛大な舌打ちをされた。

ブレザーを受け取ると、勝己君は背を向けて歩き出した。
遠くに赤髪が見えて、切島君と回ってたんだなって事がわかった。

少し匂いを堪能してから、ブレザーを羽織る。
さっきまで勝己君が着てたからか、彼の体温が残っていて、残り香よりもタチが悪かった。






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