文化祭はアオハルってやつか.
A組の出し物は10時から。
つまり、1時間は準備ができるってことで、衣装合わせをさせられている。
「いいじゃん名前、一部の層に受けそうだよ!」
フリルのついたスカート。パニエを履いてふんわりとさせたそれは、膝より上の丈で、普段のスカート丈よりもだいぶ短い。
そして、頭には猫耳。
「なんで猫耳メイドなの。」
「まず第一に文化祭らしさ。日本人は特にTPOを重視する傾向があるからね。そして、第二に差別化。他の出場者との差をだすことで、票被りがないようにする。それから…」
「もういいでーす。」
「そう?」
最もらしいことを言ってるけど、絶対面白がってるだけだ。猫耳メイドは勝己君にやってほしかった…!!
「パフォーマンスはこれね。」
そういって渡されたものは一枚のSDカードだった。SDカードは一応個性を使って読み込める。
「投影してみて。」
白い壁に投影してみると、経営科の凄さを改めて感じられた。
「…すごい。」
「でしょ?だからあんたは安心してA組の出し物見てきなよ。」
あっちゃんが頭を撫で撫でしてくれる。
美人の手って指が細くて、爪もきれいで、こんなに癒し効果がある。
自分の手をみるとクリームパンみたいでちょっと凹んだ。
「ほら、もうすぐ始まっちゃうよ?いってきな。」
時計をみると、結構ギリギリの時間で、制服に着替える時間もない。
「着替えれないじゃん!あっちゃんのばかー!!」
負け犬の遠吠えという言葉を思い出しながら体育館に走った。
体育館には、沢山の人がいて、八百万コールが鳴り響いていた。
聖母、すごい…。確か拳藤さんとCMに出てから話題になってたっけ。
みんな爆豪コールもしてくれていいのに。
そう思った時、勝己君の爆破が宙に打ち上げられた。
火柱の下を見ると、黒いシャツの上にクラスのTシャツを着た勝己君が見えた。
きっと、Tシャツは無理やり着させられたんだろうなぁ。かわいい。
耳郎さんの挨拶で、ダンス隊も登場し、クラブミュージックが始まった。
すごい、すごい!
青山君がミラーボールとして、飛び、轟君の氷や、瀬呂君のテープ、麗日さんが触れた観客が宙を舞う。
A組のみんなの個性が、組み合わさって、混ざって、新しい価値を生み出していることが、なんだかすごく嬉しい。
思わず、とても大きな拍手とともにA組の出し物が終わるまで、写真をとる手が止まらなかった。
A組のライブも、B組の劇も好評で、DVDは飛ぶように売れた。
なぜか売り子をしていると握手とか求められたけど、それは置いとこう。
なんか考えちゃいけない気がする!うん。
萌え萌えきゅんって言ってくださいとかあったけど、うん。
ヒーロー科が片付けをしてる中、ミスコンの準備のために、体育館を後にしようとすると、嫌味なやつから話しかけられた。
「あれあれ、あれれー!?名字ってば、その格好はどうしたんだい?あ、そうかー。コントにでも出場するのかなー?おっかしいなぁ、君はミスコンに出るって聞いたはずだけど、僕の聞き間違いかなぁー。」
そう言って物間が猫耳を触ってくる。痴漢だ。
うっとうしい。
顔しかいいところないくせに。
一を言うと十が帰ってくるから心の中にとどめていると、おでこに衝撃が走った。
「痛っ!」
不意打ちのデコピンはずるい。
やり返そうとすると、物間がフレームを構えて、シャッター音が響いた。
言わずもがな、私の個性だ。
コピーされるのは別に嫌じゃないけど、この服着てる時は嫌がらせでしょ!
「連写はやめてって!もう!」
「アハハ!いいじゃないか!ちょっとポーズとってみてよ!」
「変態!」
なんか勝己君の気持ちがわかった気がする。
バッシャバッシャ撮ってくるやつとか変態にしか見えない。
今度から少し控えよう。
手首からでた現像された写真を物間が眺める。
「ひっどいツラしてるねぇ。」
「ブスなのはわかってますー!」
「君はブスじゃないよ。」
「ひどいツラって言ったのはどなたでしたっけ。あれ、記憶力ないのかな?」
軽口を叩くと、腰をひかれた。
突然のことで、バランスを崩すと物間の腕で支えられた。
中学の時より逞しくなった腕に、動悸が激しくなる。
「いつもより元気ないんじゃないか?君は騒がしさが唯一の取り柄なんだから、文化祭が終わったらしっかり睡眠をとることだね。」
耳元でそう言うと、腕が離された。
そのまま物間が着ていたストールをかけられる。
ふわっと香水の匂いがした。
柑橘系かな、物間のネチネチした性分とは正反対の爽やかな匂いだ。
「貸してやるよ。目立つだろ、その格好。」
「あ、うん。ありがと。」
最近、少し眠れない日もあった。
物間が気付くなんて思わなかったな。
ミスコン会場に走る。
肩先から香る匂いのせいか胸に苦しさを感じた。
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