劣等感.





翌朝、少し早く起きると、隣で寝息をたてる八百万さんがいた。
あ、そっか。A組の寮に泊まったんだ。

そっとベッドから抜け出して、制服に着替えると、肩にある二つのボタンが、早く自分の寮に戻るように言っているような気がした。

置き手紙をして部屋を出る。
共同スペースは閑散としていて、昨日の賑やかさが嘘みたいだ。

「戻るんか。」

「勝己君…。」

背後からの声は大好きな勝己君のものだった。
寝起きだからか、いつもの覇気がない。

「早く帰らないとだからね。」

「…お前、昨日の返事はどうすんだ。」

昨日…。『俺とまわるかってことだろーが。』
文化祭に誘ってくれたんだっけ。状況が飲み込めなくて、思わず倒れちゃったとか情けない。

「んー、私なんかより一緒にまわって楽しい人のがいいんじゃないかな!」

「は?」

「あと、経営科のクラスの出し物もあるし!小忙しいんだよね、私。」

経営科のクラスの出し物はあるけど、それは個人での出し物をしない人がやるもので。自分の出し物がある私は違うけど…。勝己君と私なんかが並んで歩いちゃいけない気がした。

「そーかよ。」

勝己君に見送られて、A組の寮を出る。
気まずくて、顔は見れなかった。

空の色が群青色から淡いオレンジに染まっていく。
朝日は今の私には眩しすぎて、A組の皆みたいだ。

「劣等感…ってやつかな。」

少し回り道をしてK組の寮にもどると、あっちゃんがホットケーキを作ってくれた。

「A組の寮泊まったんだって?爆豪君のこと襲ってないでしょうね?」

「襲ってないよー!もう!」

「名字さん爆豪のこと襲ったの?度胸あるねぇ。そんなに好きなら、体育祭の時の彼の映像あげようか?」

「そんなのあるの!?ほしい!」

つい反射で答えてしまった。体育祭の時は、勝己君に興味なくて、おっかない人が一位だったんだなって思ってた。
…その話題性を狙ってPV撮影をさせてもらったんだけど。

鈴木君からもらったDVDは、勝己君の出場シーンだけを集めたもので、打倒ヒーロー科って感じの普通科の子から頼まれて作ったらしい。勝己君、体育祭前に普通科の人煽ったって噂あったしなぁ。

「選手宣誓もすごいなぁ…。」

俺が一位になる。
自信過剰だといわれるかもしれない。
でも、自分を追い込むためのハードルを言葉にすることで、より強く自分を鼓舞しているように思えた。

「私には、できない。」

女の子相手でも、全力で。相手を見くびらない。
まっすぐ相手を見つめてる。
そういうところがかっこよくて。まぶたの裏に、勝己君が焼きつくんだ。

土俵は違うけど、勝己君の隣にいて胸を張れるような。
そんな人間になりたい。






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