欠点だらけの恋心#1



「茶、飲むか?」
「お、気が利くじゃんサソリ」

目の前の女は俺のベッドに腰掛けて足をぶらぶらさせながら、嬉しそうにはにかんだ。
彼女のそういう笑顔を俺は気に入っている。自然と吸い込まれそうになり、時が過ぎるのも忘れてしまうようなその表情は、何度見ても決して飽きることがない。
綺麗でよく動く明るい表情。笑顔だけではない。泣くときも、本気で怒っているときも、彼女が見せる表情全てが好きだった。――愛していた。
マンセルを組んでいる彼女と過ごす時間は組織の他の誰よりも長く、俺はだんだんとその深い魅力にのめり込んでいった。
多分これは、恋と呼ぶにはあまりに乱暴な感情なのだろう。
彼女の美しさを眼に焼き付けるだけで満足できるほど、俺は控えめな人間ではない。
手に入れたい。自分だけのものにしたい。そう願うようになったのは、一体いつからだったろうか。
彼女が組織の他のメンバーと任務の打ち合わせをするというだけでも、今の俺は酷く不愉快に感じる。公私の区別すらろくにつけられなくなるほど、狂い始めていた。

「砂糖は入れないでね」
「…わぁってるよ」

彼女に背を向けたままティーポットに湯を注ぎ、茶の葉の舞う様を眺めて待つ。
いい色合いになった頃合を見計らって、戸棚から取り出しておいた二つのカップに均等に注いだ。ちらりと背後を振り返ると、彼女は俺の布団でゴロゴロ転がりながら暢気に鼻歌を口ずさんでいた。
大丈夫、こちらは見ていない。
素早く外套の懐から取り出した粉末を開封し、片方のカップに流し入れた。

「ほれ、できたぞ」
「へへ、サンキューっ」

彼女はテーブルに置いてやったカップに気付くと、ガバッと勢いよく身を起こした。
俺はソファに腰掛け、卓の中央から砂糖壷を引き寄せた。一杯、二杯、三杯。
俺が甘党なのを知っているから、彼女は別段指摘もしてこない。俺の向かい側のソファに腰を下ろすと、自分のカップを取り上げ、口でふうふうと息を吹きかけ始めた。

「ふー…あっつい…」
「何やってんだ。てめーは子供か」

逸る気持ちを隠すために、あえて憎まれ口を叩いた。

「だって猫舌なんだもん。ってかそれ、サソリには言われたくないんだけど?」
「あ、そう」

俺は自分のカップに口をつけながら、ちらりと彼女を盗み見た。
子供っぽいと言われたことが心外だったのか、飲み物を冷ますのはもう終わりにしたようである。おもむろに飲み口へと口元を近づけていくが、特に異変に感づいた様子はない。
俺はあくまで平然を装ってずずっと甘い茶を啜り、嚥下した。
ものの数秒後に、自分の計画が実現していることを確信しながら。
しかし、俺は完全に見くびっていた。

「……っ、く」

突然腹の底から嫌なものが込み上げ、俺は咄嗟に目の前のテーブルに手をついた。
ガタン、と台全体が大きく揺れ動き、空っぽのソーサーが小刻みに卓を叩く。

「なん、だ……コレ……うっ」
「――効いてきたみたいね」

酷く落ち着き払った声に驚いて顔を上げれば、彼女が静かな表情でこちらを見下ろしている。

「お前、何故……」

彼女のカップは呑み口が一箇所濡れていたが、量は全く減っていなかった。
――おかしい。
紅茶が丸っきり手付かずのまま残っていることに違和感を覚え、ふと手元を見遣る。

「そうよ、貴方は間違ってない。私のカップには、何か仕込んであるのよね」
「っ――!――!?」
「――砂糖。貴方しか使わないでしょ」

愕然とする俺に向かって、彼女は容赦のない事実を突きつけた。






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