「……あの、」
「んーー」
「どこ触ってるんですか」
「えー?あかーしの腹筋」
「はあ…」
ふんふんと上機嫌に鼻歌を歌いながら、なまえさんが俺の腹筋を服越しに触り続けてかれこれ五分。別にイヤラシイ触り方とかそういう雰囲気にさせるような触り方では断じてないものの、俺の平常心というのにも限界がある。それに、なにより擽ったい。
雑誌を読んでいようがスマホをいじっていようがお構いなし。なまえさんの手は止むことなく俺の腹筋を触り続けている。ちょっと、いやかなり意味がわからない。「あかーし!」と部屋に突撃隣の赤葦くんみたいなノリでやってきて(たまたま部活が休みで部屋に居たから良かったものの、居なかったらどうしていたのだろう)、最初は普通に喋ったりしていたというのに。思い立ったが吉日らしく、何故かいきなり俺の腹筋を触り始めたのだ。あのゾワリとした感覚は暫く遠慮願いたい。思い出しただけでも鳥肌がたつ。
「やっぱりかたいなー。あかーしの腹筋」
「そりゃ、鍛えてますし」
「私のぶよぶよのお腹とは全然違うね」
「ぶよぶよって…」
「うん。ぶよぶよ」
「ホントかどうか確かめて良いスか」
「え?だめだよ。あかーし手つきイヤラシイし」
失敬な。
俺は別にイヤラシイ触り方なんてしていない、……わけでもないけど。下心二割くらいだし。健全な男子高校生ならば誰もが抱くであろうソレ。俺だって、そこらの男子高校生と一緒なのだ。前に「お前は淡白すぎる」と木葉さんに言われたことがあるけれど、見せないだけで、実は内側はどろどろに様々な欲でまみれている。好きな人と二人きりで部屋に居れば、持ちたくない感情や欲求も持たざるを得ないというか。必死に自分への言い訳を探す。が、所詮言い訳は言い訳にしかならない。
「あかーし」
「はい」
「どいて」
「どきません」
「私はまだ貴方の腹筋を触っていたいの」
「俺はなまえさんに触りたいです」
ぶーぶー文句を言っているなまえさんの手をひょいと避ける。非情にも男と女の力の差なんて歴然で、いくらなまえさんが抵抗しようとも男の俺の力に女のなまえさんの力が敵うはずもなく。「あかーしのすけべ」「なんとでも」足癖が悪い彼女は俺に抵抗する時、いつも俺の腹筋めがけて蹴りをいれてくる。あんた腹筋が好きなのか憎いのかどっちなんだよ。
しかし、だけれど。有無を言わさず自分の唇を彼女のそれに押し付ければ、彼女の抵抗する力も弱まるというわけで。
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