木兎さんの落ち着きがない。
いつもだろ、と言われてしまえばそれまでだけれど。何かを待っているような、そんな落ち着きのなさ。
マネージャーのなまえさんも、木兎さんと同じように落ち着きがない。その様子はかわいいんだけど、落ち着きがなくて心配になる。転んだりしたら、どうするんだって。
2人してずっとそわそわ、そわそわとしている。部活中なんだから、集中してくださいよ。そんな2人を他の先輩が見てニヤニヤニヤニヤと笑うのだ。どうしてか、なんてわかり切っているから、あえて指摘することはしなかった。
…何かやるんだろう。
今日は俺の誕生日で、先輩たちが何やらコソコソコソコソとしていたのを知っている。まあでも、顔面シュークリームとかだったら部活をやめてやる。それは無いだろう、シュークリームを無駄にするくらいなら、あの人たちは全部自分たちで食べてしまいそうだし。好きななまえさんに祝ってもらえるなら、気付かないふりをしようと思った。
床にバレーボールを叩きつけて、サーブを打つ。誕生日だからといって、部活の手を抜くことはしない。今ここで疎かにした一球も、公式戦のマッチポイントの一球も、同じだから。
「赤葦、ナイッサー!」
「さすが今日のしゅや…ハッ!」
「バカ木兎!!!さすが赤葦、さすが今日のシュメール人だね!ハッハッハッハ!」
「そうそうシュメ…おいみょうじ、シュメメメってなんだよ」
「シュメール人だよシュメール人!シュメール人って何かわかんないけど!ハッハッハッハ!」
「誤魔化すの下手過ぎだろお前ら」
「木葉シーッ!赤葦に聞かれちゃう!」
…聞こえてますから。今日の主役って、やっぱりなんかやるつもりなんですか。それでも聞こえないふりをして、もう一本。
そうして部活終了の時刻になって、コーチと監督の話を聞いて全体は解散をする。いつものように木兎さんが自主練を始めて、俺もそれに付き合う。何本かトスをあげて、木兎さんがスパイクを打つ。いつも通りのメニュー。いつも通りの俺。
そう思っていると
「あっ、あれえー?みょうじがいないぞー?」
「あれー大変だー。みょうじどこだー?どこだー?」
何だこの下手くそな三文芝居は。
なまえさんも
「きゃー。赤葦たすけてー。きゃー。」
…すごく嫌な予感がして、無視しようかと思った。
「赤葦、みょうじをたすけてくれ!」
「どうやら倉庫にいるみたいだー!」
…ネット向こうの、備品が入った倉庫。いやドア開いてるじゃないですか。出てくればいいじゃないですか。
「…はあ」
だけど一応俺は後輩だし、誕生日ということで企画をしてくれているのも伝わるし、無下にするわけにも行かなくて、思いっきりドアの開いているなぜか明かりのついていない倉庫に入る。
「なまえさん。何してるんですか。」
「きゃーあかーしこっちきてー」
倉庫の奥にいるらしいなまえさんの方に行けば、バタンとあの先輩たちがドアを閉める。やりやがった。やりやがった。
「あかーし!あかーし!キャーキャーたすけてー」
仁王立ちで暗い倉庫の中で助けを呼ぶ高3。木兎さんよりバカかもしれない。
「助けるも何も、アンタ困ってないじゃないですか」
「困ってる!だから私の話を聞いて!」
「…なんですか」
好きな人と薄暗い倉庫で二人きり。ドアを隔てた向こうに、耳をそばだてた先輩がいるのもわかるけどそれでもいけないことをしているようで落ち着かない。
「あかーしの誕生日プレゼント、家に忘れた!」
「…それを言うためだけにこんな大掛かりな事をしたんですか?」
「だからーっ!」
そういってポケットからなぜかハチマキを取り出して、頭につける。
「ハイ!プレゼント!」
「…?」
何を言っているのかがわからなくて、ハチマキを頭に巻いた好きな部活の先輩が目の前に立っている状況が、どうプレゼントに繋がるのか理解ができなかった。
「私がプレゼント!これ、リボンがわり!ね!わかる!わかる!?赤葦が好きだから、わたしの事あげる!」
だからもらって!と大きな声で叫ぶ先輩。馬鹿じゃないのか。外には先輩たちがわらわらと寄ってきていて、なまえさんの発言なんて一言一句細大漏らさず聞かれているだろうに。
「…そんな可愛い事してると、食べちゃいますよ」
耳元でこっそりと囁く。流石に冗談だけど、先輩たちには聞こえないようにこっそりと。きっとなまえさんははずっと真っ赤で、それを隠すための暗闇だったのかもしれない。世界一幸せなプレゼントだと思ったから、先輩の手をとって倉庫から堂々と出てやった。
「みょうじ、うまく行って良かったな!」
「木兎のアイデアのハチマキ、あかーしに全然伝わんなかったよ。」
「なにぃーっ!?」
「なまえさんの巻き方が体育祭仕様だからですよ。リボン結びすれば良かったじゃないですか」
「テンパってそれどころじゃなかった!」
…まあ。何はともあれ。
「「赤葦ハッピーバースデー!」」
下手くそなサプライズだな、そう思って笑った。もう少し上手くやってくださいよ、あんな下手な三文芝居はもうこりごりです。そう思うはずなんだけど、不思議と今日と言う日は暖かくて、幸せな一日だと思えた。
「誕生日に私がプレゼント、なんてよくやるよな。振られたらどうするつもりだったんだよ」
「だって俺、みょうじが赤葦好きだったのも、赤葦がみょうじ好きだったのも知ってたもん」
「木兎知ってたの!?ヒドイヒドイヒドイ!!教えてくれたっていーじゃん!!」
「まあ結果オーライじゃね?」
「返事、赤葦何ていったと思う!?」
「俺聞こえなかったんだよね、」
「耳元でねいってくれたの!!あのね!」
「…それはダメです。」
そういってなまえさんの口を塞ぐ。もごもご言っているけれど、気にしない。俺の誕生日は皆が浮かれている気がしていたけれど、一番浮かれていたのは俺かもしれないなと思った。
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