窓際の席でひとり、そっと空を眺めているのが似合うような人だと思った。
友達がいない訳じゃない、むしろ多い方。
たくさんの人に囲まれているのに、なんとなく一人でぼんやりしている姿の方がしっくりくる後ろ姿。
そのくせ、誰かが傍によると少し微笑む、そんな赤葦君が好きになっていた。
好きは好きでも、遠くから見守っていたい、そんな恋。
だって彼はあまりにもいろんな人に慕われていたから。
見ていることすら辛くなる、そんな恋らしかったから。
「みょうじー、今日赤葦誕生日だってさ」
「……知ってる。みんな騒いでたから」
「何もしねーの?」
「おめでとう、って言えるモブの一人にでもなれたら上出来かな」
「えー」
木兎の呆れ顔にあは、と笑っておいた。
部決でも赤葦君と仲が良くて、普段からも仲がいいとか羨ましいと思った。
それに誰にでも分け隔てなく接する優しさの持ち主だ。ハイテンションで切り替わりが早いけど。
赤葦君は一個下の後輩で、観賞用系男子と言うか、静かに動向を見持ってたい人だった。
いかんせん、ライバルも多い。
「お前の事だからプレゼントは用意してるんだろ?」
「うんまぁ……おこがましかったのだけど」
「おこがましい……?で、何持ってきたんだ?」
「クッキー。でも手作りって重いよね。重いよね?」
彼女でもないのにクッキーとか、手作りとか、重い……よね。
なんで作ってる時に気付かなかったんだろう。
馬鹿か、私は。
「や、知らねー。でも、俺はもらったら嬉しいけど」
「ホント!?じゃ、じゃあ多分これ渡せるわけがないから、あげる!!」
「ちょ、待てはやまるなって、それに多分……」
「木兎さん」
「うわっ!?」
目の前に赤葦君がいた。
どういうことなの。よく見かける普段通りの顔で木兎さん、とまた言った。
「部活の日誌、持ちっぱなしじゃないですか?」
「え?あ、マジか。あー……部室だ。すぐいるか?」
「出来たら」
「じゃ、持ってくるなー。すぐ帰ってくるからここで待ってろよ」
「はいはい、早く持ってきてくださいね」
「おう。あ、みょうじー!」
良い笑顔で頑張れよ、と言われた。ちょっと、空気を読んでほしかったな……。
赤葦君が首を傾げてるから。あとぶっちゃけ一人にしないで欲しかった。
「お昼時にすみません、みょうじ先輩」
「いいよ……って名前知ってたの?」
「はい。木兎さんがよく言ってますから。それに」
俺も貴方に興味がありました。
え。
間抜けな声をあげて固まった。聞き間違い、か。
「自己完結させないでくださいよ」
「え」
「あ、すみません」
そう言って彼は視線を泳がせる。
彼は右に私は左に。かつてないほどの気まずい時間だった。
ちらちら視線をおくっていたら赤葦君と、ばっちり目が合う。
「あの」
「先輩、俺は多分みんなが思ってるほどできた人間じゃないです」
「え、うん」
「だから、木兎さんが貴方の事をたくさん話しているのを、聞いてるだけでも辛いです」
「……?なんかごめんね?」
「あー……そうじゃなくて」
くしゃり、と髪をかき混ぜては睫毛を伏せる。
その表情が普段話で聞くような彼とは違くて、珍しい物を見たな、という気持ちでいっぱいだった。
「えーと、同じ学年だから仲がいいのも分かりますし良い事、だとは思うんですけど。俺的には木兎さん経由で話を聞くんじゃなくて……直接話してみたいというか」
あぁ、だめだ。
なんて彼は言って机に突っ伏してしまった。その耳が赤いのに気付いてこっちにまで移りそうだった。
これで気付かないほど、鈍感な人間じゃないんだけどなぁ。
自惚れにも近いこの距離感でぽつりと呟きを落とした。
「木兎からも聞いてると思うけど、私ってすごいネガティブ思考なんだよね。遠くから見てたいんだ」
「俺は観賞されるほどの人間じゃないし、見られるだけなのは嫌です。その先も欲しい」
机からくぐもった声が聞こえる。
赤葦君ってこんなに癖っ毛なんだ。猫の毛みたいだ。
あぁ、キャパオーバーしてるから、なに口走るか分かんないや。
「……近くで見てもいいんですか?」
「……是非、近くに来てください」
「……お誕生日、おめでとう」
「……ありがとうございます」
むくりと体を起こした赤葦君は赤くなった顔を私の前にさらした。
可愛い、なんて思ったら怒られそうなんだけど。
「クッキー、食べますか?」
「食べます。……俺用ですか?」
「……うん。なんで知ってるの?」
「木兎さんが、先輩ならたぶん持ってくるぜ!って言ってたからです」
ピンクのリボンでラッピングされたそれを解く。
ふわふわの甘い香りが広がると彼は目を細めた。
「あと、先輩」
「はい?」
「俺、観賞用じゃないって言いましたけど……」
「うん」
「多分、先輩が思ってるほど俺、いい子じゃないですからね」
私が何か言う前に、彼の口に運ばれていったクッキーがさく、と音を立てた。
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