彼はたぶん知らないと思う。私がどれだけ彼の誕生日に情熱を注いでいるか。
「で、赤葦君の誕生日に二週間も前から考えてるの?」
「そう」
「でもあんまり決まってない」
「そう」
京治君は生まれて初めての彼氏だ。いろんな意味の初めてということもあり、失敗はしたくない。だからどんなものを贈ろうと試行錯誤していたんだけど、今回はそれが仇になったようで、ほとんど固まっていなかった。
そして明日が京治君の誕生日だった。私の料理スキル全て注ぎ込んだケーキを作り、お祝いの言葉を贈るくらいしか考えついていなかった。
しかし、目の前の友達は私の話より彼氏の写真を見ることに夢中だ。人が深刻な話をしているときに。少しはこっちに関心を向けてほしい。
「手っ取り早くプレゼントでいいじゃん」
「プレゼントってもどんなもの贈るか迷いすぎてさ……」
「それとなく聞いてないの?」
「私にそんな上手いことできるわけがない」
「もー、もっと早く言ってくれれば手伝ってあげたのに」
彼氏の誕生日くらい全部自分でやりたいんだよ私は。ただ、もっと早くから相談すればよかったとは思う。友達の彼氏である先輩とか。バレー部だし。
「聞くとしたら、今日が最後じゃない?一緒に帰るときにさ」
私は帰宅部だけど、たまに京治君の練習を待って一緒に帰ることにしていた。なるほど。今日はケーキ作るのに早く帰るつもりだったけど。
「そうしてみる」
「頑張れ!」
そう言って友達は笑顔で親指を立てた。なんだかんだいい友達だ。
バレー部の練習が終わっても、京治君はその後自主練する。帰りは遅い。
「ごめん、待った?」
「ううん、大丈夫だよ」
慌てて着替えてくれたらしい彼は息があがっている。そんなに急がなくてもいいのに。優しさが嬉しくて、自然と笑みがこぼれる。
空はとっくに濃紺になり、月明かりがありがたくなるほどだった。コートに身を包んでいても寒い。
課題のことだとか、そろそろ年が明けてしまうだとか、そんなことを話していても、私の頭は明日のことでいっぱいだった。もしプレゼントとして用意できなくても、今後のために聞いておくべきだ。
会話が途切れた今がチャンス。私は京治君を見た。
「あ、あのさ、京治君」
「俺、何もいらないから」
……先回りされてしまった。名前を呼んだだけなのになんで答えられるの。言葉を続けない私を図星だと受け取ったのか、京治君は私の疑問を解決してくれた。
「木葉さんが言ってたから。みょうじちゃんはいろいろ考えてそうだよなって」
きっと個人的見解ではなく、友達からの情報源に違いない。何口滑らせてるんだあの人。今度会ったら文句言っておかないと、そう心に留め置く。
「俺に何かしてくれるのは嬉しいけど、気持ちだけで十分だし。我慢させてる上にいろいろ貰ってるし」
我慢、は分かる。強豪バレー部だから、土日だって練習がある。同じクラスなわけでもない。一緒にいる時間は限られている。寂しいけど、頑張る彼が好きだから特に気にしていない。いろいろ貰ってる、という点は何も思いつかないけれど。
「弁当だとか、元気だとか。たくさん貰ってるから。大丈夫だよ」
街灯の明かりに照らされた微笑みは穏やかだった。優しい声音とともに、それは私の心臓を撃ち抜いた。
「や、でも、京治君が生まれた日だから……ちゃんとしたいんだよ」
彼はたぶん知らないと思う。私がどれだけ彼に恋したことを感謝しているか。それは京治君が生まれなかったら、恋していたかも分からない。一緒にいるだけで、その人を想うだけで幸せになるこの感情を教えてくれた。だからしっかり祝いたい。
突然京治君の足が止まった。合わせて私も止まれば、頭にぽんと手が置かれる。そのまま軽く撫でられた。
「そんなに深く考えなくたっていいよ。なまえがそう思ってくれてるって知れただけで十分だし」
「でも」
「俺がいいって言ってるんだからいい」
有無を言わせない口調。意外と頑固な京治君は、こうなったらてこでも動かないだろう。
「……じゃあ、せめて、日付変わった瞬間におめでとうって言わせてね。あと、明日ケーキ持ってくるから食べて」
「喜んで」
もう一度笑った京治君に、私はまた胸がときめいた。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -