赤葦は鉄仮面というほどではないにしろ、なかなかのポーカーフェイスだった。そりゃ彼も同じ人間だし、なにより同じ高校生なのだから笑ったり怒ったりすることはあるものの、たいてい変わらないその表情はなにも感情を表すことはなくそのまま貼り付いている。
「誕生日おめでとう」
「ありがとう」
「…もう少し嬉しそうにしたら」
「べつに十分うれしいけど」
せっかく誕生日プレゼントを渡してもにこりともしてくれない。赤葦は私に対しては馬鹿正直なので嘘はついていないと思うけれど、少しくらい嬉しそうにしてくれたっていいんじゃないかと思う。まあ赤葦がにっこり笑ったらそれはそれで怖いなあと思ったりもするのだけど。喜んでいることを証明するためか、彼は突然思いついたようにぎゅうと抱きしめてくれた。からっ風のせいで冷えた心が和らいでゆく。赤葦が笑ったところ見てみたいなあなんて思ったりして。
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「いや赤葦ふつーに笑うけど」
「知ってますよ、クラスの男子と喋ってるときとか笑ってますし。私の前だと笑わないんです」
「そりゃおまえ彼女見て爆笑する彼氏がどこにいるんだよ」
そういうことじゃない。木兎先輩と木葉先輩は私がなにを言いたいのかさっぱり分からないらしい。要は爆笑とかじゃなくて、私は彼の邪気のない笑顔を見たいのだった。誕生日くらいそんな表情を見たってなんの罪もないと思う。いや彼の誕生日だから私の望みなんて通用しないのかなあ。先輩たちはやれやれといった感じで顔を見合わせて、それからもう一度私のほうを向いた。さっきよりは真剣に協力してくれるみたいだ。
「でもさー赤葦ってなまえと喋ってるときすごい頬緩んでるよな」
「えっほんとですかそれ」
「傍目から見たらすげー分かりやすいぞ」
うんうんと急に頷きはじめた先輩がたは何だか急に熱が入ってきてこちらが引くくらいだった。前になまえが赤葦にマフラー巻いてやったときあったじゃん、あのときの緩みようはやばかったね、俺思わず赤葦じゃないと思って二度見したもん。この間なまえにもらったとか言ってたマフィンだっけ?すげーにやにやしながら食ってたし。あと時々平然と惚気るじゃん、あれ腹立つわー。等々エトセトラエトセトラ。ヒートアップしてきた先輩たちの口から次々と飛び出す赤葦の普段の様子に頭の処理が追いついていない。
「まあなまえが気づいてないだけだわ」
「灯台下暗しってやつ?」
「それちょっと違うんじゃね」
「えー合ってるだろ」
ぎゃははと楽しそうにし始めた先輩たちの後ろからにゅっと赤葦が現れたので思わずあ、と声が出た。ほらほら彼氏さまのお迎えだぞー末長く爆発しろなんていう見送りをされ、私は子供みたいに赤葦に手を引かれて歩いている。
「うーん今度デートでお笑いライブでも観に行こう」
「は?」
「それともいっそのことくすぐったりしたほうが早いのかな」
しばらく私を見下ろしたまま相変わらずの無表情で黙っている赤葦は私の頬をぎゅむと引っ張った。こっそり彼の表情を伺ってみたけれど、全然にやにやなんてしていない。先輩のうそつき。私のほっぺで遊んでいる赤葦はとてもへんてこなことをしているのに大真面目な顔をしているものだからなんだか困ってしまう。
「抵抗しないの?」
くくっと一瞬笑った赤葦に驚きのあまり目を見開くと、こんどは笑みを隠さず頬をぎゅうと押しつぶしてきた。こんなの不意打ちすぎてどうしたらいいかわかんない。だれか教えてって言ったってそんなのは無駄にきまっている。先輩たちになに吹き込まれたか知らないけど、と赤葦は言った。
「なまえは馬鹿だけど可愛い」
「馬鹿は余計」
「だからこれからもよろしく」
だからの使い方合ってるのそれ、って思ったけどなにも言えなかった。どんな顔したらいいか分からなくて思わず抱きつくと、心地よい静かな笑い声が耳の奥に響く。ねえそういうの、反則っていうんだよ。
:)
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