別に、シンプルな家庭だ。家に帰れば母がいて、夜八時までには父も帰ってくる。どちらかが不倫してるとかそんなこともない。朝と晩は一緒にご飯を食べる。お昼は母のお手製弁当で、お小遣いもそれなりに毎月貰えているし、不満なんて、ないのに。
なんとも言えない閉塞感。
学校、サボっちゃおうかな。電車がホームに入って来た。今飛び込んだら、死ぬのかな。私はホールへ飛び込むことなく、いつも通り電車へ乗り込んだ。いつもより一本早い電車だから、人は少ないし見慣れない顔ぶればかりだ。
座席に座りイヤホンを取り出す。iPhoneに繋いで音楽を再生する。妙に視線を感じて顔を上げると、赤葦くんがいた。目が合ったからとりあえず会釈すると、向こうもぺこりと返して来た。
私はiPhoneに視線を戻して、適当にニュースを見始めた。人気俳優が結婚とか、どうでもいい。あ、飴舐めよう。カバンを探ってポーチからいちご飴を取り出す。口に含むと、甘酸っぱい味が広がる。…寝よう。そう思って画面を消した。
「……!」
気づいたら赤葦くんが目の前にいた。じっと私のことを見ている。イヤホンを外して話しかける。
「ど、したの…?」
「…隣、いい?」
「ぇ、うん………」
少し避けて座りなおすと、彼は本当に隣に座ってきた。空いてる席、たくさんあるのでは…?彼は同じクラスではあるけれどそんなに喋ることもないし、なかなか謎だと思っている。あ、よく先輩に絡まれてる。そんなイメージ。
「…いつも、この電車なの?」
「朝練あるから」
「そっか…」
どうしよう、何喋ればいいの…?さっきまで寒かったはずなのに、身体が一気に熱くなる。
「えっと、何部、なの?」
「バレー部だよ」
「そっか」
あぁ、また「そっか」で終わらせてしまった。
「あ〜…寒いね、最近」
「そうだね」
「私、寒いの苦手なんだ…」
「俺も…冬生まれなのに」
冬生まれなのか。まぁ夏よりはイメージに合うな。冬って言えば十二月から二月だよね?
「何月生まれなの?」
「今日」
「……ぇ、今日?今日なの?!」
予想外で思わず大きな声を出してしまった。電車内に声が響き渡る。は、恥ずかしい。
「ご、ごめ……あ、おめでと…?」
「ありがと」
「あー……何も、あげられるものが…」
「飴…」
「ん?」
「その、飴ちょうだい」
飴…赤葦くんも飴とか食べるんだ…なんだか意外だ。お菓子のイメージない…。
「あ、待って、ね?……んっ」
あれ、もしかしなくても、今、
「あ、着いたよ、降りよう」
呆気に取られている私の手をさらりと取って、私はされるがままだ。どうしよう、ついさっきまで感じていた灰色の感情は何処へ行ってしまったんだろう。
今なお続く手の感触が、唇に残る感触が、私の中を埋め尽くしていく。
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