にゃあん。猫の鳴き声が聞こえた。
「あ、猫だ」
塀の上を歩く猫が見えた。野良猫にしては毛並みが整っている。猫は好きだけど、種類までは分からない。雑種かもしれない。
「美人さんだね」
「そうだね」
隣にいる京治君は特別気にした風もなく相槌を打つ。
にゃあん。猫に少し近づいて声を真似てみる。大きな瞳は私をじっと見つめていた。それから、にゃあん、と同じように返してくれた。
「京治君、返してくれたよ!猫なのに!」
「返事したってより、普通に鳴いただけじゃない?」
冷めた反応をされたけど無視。それより猫だ。
「にゃあん」
動物の声真似をする。正直人前でやるには恥ずかしい行為だ。でも周りに人がいるわけでもないし、京治君だけだからまだ大丈夫。
猫にしては珍しく逃げず、そのままじっと止まっている。撫でてもいいだろうかと、そっと手を伸ばす。それでも逃げる気配はない。むしろそのまま塀に座り、どっしりと構えた。チャンスだ。そのままふわふわの頭に触れた。優しく撫でると、猫は気持ち良さそうに目を細めた。
「わ、可愛い……」
写真に収めたい。右手で猫を撫でながら、左手でスマホを探し出す。ずっと棒立ちしていた京治君に無理矢理取り出したスマホを渡す。
「京治君、撮って!こんな猫なかなかいないから!」
「……うん」
相変わらずの無表情のまま、京治君はスマホを受け取った。もうカメラモードにしてあるから、適当に数枚押してもらえばいい。そう言ったんだけど、京治君は無意味に連写している。なんで。
「な、なんでそんな撮ってるの?」
画像容量がすごいことになるし後で消すの面倒なんだけど。と思ったら、いつの間にか京治君のものに変わっていた。
ようやくシャッター音が止んだ。底の見えない瞳が私に向けられる。何を言われるのだろうと、変にどきどきしてしまった。
「可愛すぎてなんかムカつく」
何を言われたんだか分からなくて、猫を撫でていた手が止まった。その隙に猫が立ち上がり、また歩き始めた。
「あ、行っちゃった」
残念。こぼしたら京治君はまだじっと私を見つめていた。
「俺の前じゃ、あんな顔しないくせに」
「え?」
「猫相手だと顔とろけてたよ、なまえ」
そんなはずは、……あるかもしれない。だってあの猫は実際美人だったし、可愛かった。飼いたいとは思わないけど、可愛いものは可愛い。女子なんだから仕方ないじゃない。
「だ、だって猫だし。可愛いし」
なんで私が謝ってるんだろ。
「ふうん」
返事はたったそれだけなのに、すごく怒っているのが分かる。まさか猫に嫉妬してるわけじゃあるまいし。まさか、ね。
「京治君の前だって、顔とろけてるよ」
ぼそりと呟いた言葉は、きっちり彼に届いたようで。京治君はもう一度私を見た。何言っちゃってるんだ、私は。気恥ずかしくなって顔をそらした。
「なら、いいけど」
ふっと笑みをこぼした京治君はとってもかっこいい。きっと今の私の顔、とろけてる。
「赤葦、何見てんの?」
「なまえが猫を撫でている写真です」
「うわっ、なんかいっぱいあるんだけど!?」
「連写したんで」
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