空を見上げると眩しいほどに輝く太陽があった。これだから夏は嫌いなんだ。
私は心の中で悪態をつきながら、西瓜を切ってベトベトになった手を洗っていた。西瓜はとても美味しいけれど、私は好んで食べるほど好きではない。だから皆が嬉しそうにしゃくしゃくと食べてる方が楽しいし好きだ。美味しそうに頬張る彼らを見ながら、私は履いていた短パンで手を拭いた。赤葦くんの考えた練習メニュー案を見ようと体育館の扉のところに腰掛けると、直ぐに私には大きな影が覆いかぶさった。
「なまえさん、食べないんですか?」
「あ、赤葦くん。私、そこまで好んで食べるほど西瓜好きじゃないから」
「でも、休憩なんですからマネージャー業は置いといたらどうなんです」
彼も私の横に腰掛けた。人に食えと言った割には、自分も食べていないじゃないか。そんな意味を含めた視線を彼に送ったら「もう2切れ食べました」と澄まし顔で私に言った。
メニューボードを見つめていたら、赤葦くんが「なまえさん、休憩です!」と叫ぶ。やめてくれ、叫んだら木兎さんという面倒な人が寄ってくるだろう。なんていうのは杞憂だったのだが。
「大声やめてよ…」
「じゃあ、そのボードはそっち置いて下さい。俺と話でもしましょう」
「なんで赤葦くんなの」
「まあ、色んな意味で」
彼はニヤリと笑った。その笑みはまだ慣れなくて、ちょっと照れる。私は体育座りで縮こまりながら、楽しそうに騒ぐバレー部の方を見つめた。この夏のちりちりとした肌を焼く感じ、女性の天敵だ。
私はポケットに入れていた日焼け止めを出して、シャカシャカと振った。右腕に線を描くようにビッーと日焼け止めをつけた。
「女性って大変そうですね」
「赤葦くんは白いからいいよねー。日焼け止め塗ってる…わけないか」
「そうですね。塗ってません」
「うわっ、出しすぎた!」
何やってるんだと赤葦くんは面倒臭そうに私を見た。付け過ぎた分を彼の手のひら擦りつけると「おいこら」と罵りつつ、手の甲と手の甲で日焼け止めを伸ばしている赤葦くんがいた。うわ、ちょっと女の子みたい。
今年は今まで一番焼けた。それは私の友人達と蜃気楼に目が眩むほどの炎天下の中で海に行ったせいだ。数時間遊んだだけでも私の肌を焦がすには充分な威力だった。
「水着の日焼け痕ですか」
「うん。私、タンキニ…って分かんないか。まあ、それがくっきり残っちゃったんだよね」
「へえ、それはそれは…」
「待って、なんで少し嬉しそうなの」
赤葦くんは私の方へと向き、軽く私のシャツの襟元を外側へくいっと曲げた。伸縮性に優れたTシャツは、彼の力に負けて、だらしなく私の肩を露出させる。嗚呼、なんと不甲斐ないシャツなのだろうか。そして目の前の彼を、私は仮にも彼氏で無かったら殴っていただろう。たらりと汗が彼の額から頬にかけて滑り落ちていく。
「このコントラスト、俺好みで凄くそそります」
「は…、は?」
「なんか、燃えません?」
「分かんない」
私は、今とても良い笑顔で彼にそう返したと思う。彼の何を考えてるか分からない瞳が、私の肌を見つめていた。なんだか、とても焦げそうだ。いや、もしかしたら私の心臓は彼によって焦がされているのかもしれない。
彼はにやりと笑ってから、私の日焼けした水着の痕を指の腹で撫でた。彼の弧を描いた唇がゆっくりと動く。まるで時が止まったように動かない私に、その動く対象物はとんでもなく刺激を与えた。
「俺、こういうの好きですよ」
くらりとする、どうやら私は彼の視線によって熱射病のようだ。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -