お茶をどうぞ


寒くて寒くて仕方ない。
かじかむ手にふうっ、と暖かい息を吹きかける。
気休めにしかならないが、寒い空気に晒したままにするよりはずっといい。
そんな私の隣を歩く敬人は眉間にシワを寄せて私を見つめる。

「どうしたの?」

「寒いなら家でデートしても良かったんじゃないのか?」

「だって、前に敬人が好きな作家の新作の小説が出たから欲しがってたじゃないの。
それに、どうせ他の本も買うんでしょ?
それなら一緒に本屋さん行った方が敬人も都合いいかなって」

「いつも忙しそうなななしに苦労をかけるのは正直俺としては不服なんだがな」

溜息をついた敬人をチラリと横目で見て、私も溜息をついた。
私の方が敬人よりも年上で、確かにそこら辺の高校生よりも忙しいとは思う。
でも、生徒会に所属し、アイドルとして日々頑張っている敬人だってとても忙しいと思う。
苦労をかけているのは私の方かもしれない。

「敬人、いつもごめんね」

「何がだ?」

「うーん、なんか付き合って貰っちゃって」

いつも私が敬人に会いたいだとかデートしたいだとか言うと、ライブや学校行事が無ければ時間を作って私に会いに来てくれる。

「…何故謝るんだ。
俺が好きでななしと付き合ってるんだ」

そう言うと照れ隠しなのか敬人は眼鏡をクイッとあげる。
今の私の発言は、そういう恋人として意味の『付き合ってもらってる』ではなく、
出掛けるのに『付き合ってもらってる』って話なんだけどな、なんて微妙な言葉のすれ違いに心の中でクスリと笑った。
しっかりしてても、なんだかんだ可愛いところもいっぱいあって、敬人を知れば知るほど好きになる。

「…ありがとう、敬人。大好き」

私がそう言うと敬人は嬉しそうに頬を緩める。
私にしか見られない表情だと思う。

「それにしても、本当に冷えるな」

「そうだね。あ、向こうに自動販売機があるよ」

自動販売機の前まで来ると私はお目当ての物をすぐに買った。
一方の敬人は俺はいい、と言った。

「あれ?敬人、温かいの飲まないの?」

「…いや、手元に細かい金がないんだ」

苦笑する彼に先程買ったばかりの温かいペットボトルを持たせる。

「…いや、悪いが俺はこういうのは…」

「知ってる、敬人はお茶がいいんでしょ。
お姉さんが買ってあげる」

自分よりしっかりした敬人の前では、こういうときくらいしか、年上面できない。
だから今だけここぞとばかりに年上面してやる。
自販機の取り出し口からお茶を取り出すと、敬人に持たせていた自分のペットボトルを彼の手から取る。
代わりに買ったばかりの温かいお茶を彼に持たせる。

「…ななし、ありがとう。
また礼は後日に…」

「そんなお礼とかいいよ。
寧ろ私がいつも敬人を振り回してばっかりだし。
ほら、温かいうちに飲みなよ。冷めちゃうよ?」

近くにあったベンチに2人で腰をかけると、敬人はお茶に口をつけた。

「……温かい」

敬人はそう言うと、寒さで強ばっていた表情を緩ませ、微笑んだ。
あまりにもその表情が愛おしくて、彼の緩んだ頬にキスをした。
一瞬唖然としつつも、すぐに「度し難い」と呟いた。
そんな敬人の表情は温かいお茶よりも私を温めてくれるのだ。


お茶をどうぞ
貴方と温まるためならいくらでも


職場のお兄さんにお茶をいれてあげたら「温かい…」って言ってたのがちょっと可愛いなとか思ったので是非お話のネタにしたいなと思いました。
今回は年上お姉さんと高校生蓮巳君という感じでいきたかった。
いいタイトルが思い浮かばなかったですが、反省はしていません。

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あからこ

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