幸せという名の剣


※年齢操作あり


「ただいま」

玄関から小さな声が聞こえてくる。
声の主は仕事から帰ってきたななしだ。
時計を見るといつもよりもかなり遅い帰宅だということを、ぼんやりと思った。
ベッドに腰掛けて読んでいた本を閉じたと同時に、ななしが部屋に入ってくる。

「おかえり。随分と遅かったな」

「…うん。ごめんね、先に寝ててって言っておけば良かったね」

へらりと笑うななしは、どこか痛々しい笑顔だった。無理して作り笑いを浮かべているのが丸わかりだ。
俺が腰掛けている隣をポンポンと叩いて座るように促すと、きょとんとしつつもななしは座った。

「俺がななしが帰ってくるのを待ちたかったから、起きていただけだ。気にするな。
…あ、その……話が変わるんだが、何かあったか?」

俺が尋ねると、ななしの表情が曇った。
やはり触れない方が良かったのだろうか。

「…すまん、言いたくなければ無理にいう必要はない。
ただ、ななしに無理して欲しくないんだ。
俺に心配させまいと、無理して笑っているのも分かっている。
俺はななしがただただ心配なんだ…」

ぽんとななしの頭に手を置くと、
ななしはせきを切らしたように泣き出した。

「ごめ、ん………もう、無理…な、のっ…辛い…」

しゃくり上げながらななしは今日あったことを俺に告げた。
仕事でミスを犯し、周りの人間から色々と言われたらしい。

「…大丈夫だ、無理をするな…」

「…ひっく、ごめん…」

ななしを優しく抱き締め、あやす様に背中を撫でる。
ななしも俺の背中に手を回し、ぎゅっと力を入れて抱き締め返される。

「っ、そんな…優しくしてくれ、るの…敬人だけ、だよ…っ」

一体彼女がどういう立場で、どういう状況なのか、詳しいことが分からない。
ただただ、辛い、ということしか分からず、自分の無力さに悔しさが込み上げてくる。

「………ななし」

「…っ、なに…?」

「そんなに辛いなら───」

俺が幸せにする。
そう耳元で囁けば一瞬ななしが固まった。

「…私、敬人がいるから、充分…幸せ、だよ?」

そう言われ俺の心臓はいつも以上にドクドクと速く鼓動を刻みだした。
寧ろそんなことを思ってくれる俺が幸せだ。
だが、そういうことではない。
俺は抱き締めていた手をななしの両肩に置き、ななしから身体を離し、目を見つめる。
俺が言いたいのは、

「ななし、俺が今以上に幸せにする。
だから、結婚してくれないか」

噛まずに一息で言うと、ななしはまたボロボロと涙を流し始めた。

「うっ…うぇっ、ずるいよ……せっかく、泣きやめかけてた…のに…ぃ」

「…嫌…だったか?」

「敬人のばかぁ……嬉し泣き、だよ…
もう、私…すっごい、幸せ…」

ななしの涙を拭ってやると、ななしの方からそっと唇を重ねられる。

「ふつつか者ですが…よろしく、お願いします」

「ああ…こちらこそ、よろしくな」

このまま寿退社させれば、ななしは自由の身になるだろう。
結婚をダシにした、ということではないが、ひとつのきっかけとして、このままななしにとっての幸せが連鎖すればいい。
俺が幸せにする。あらゆる手段で、絶対にだ。
そんなことを考えながら今度は俺の方から唇を重ねた。


幸せという名の剣

掲げて俺は戦う。ななしから幸せを奪う者は俺が許さん。


プロポーズネタ書きたかった。
なんかよく分かんね……ハッピーエンドなのか……?

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あからこ

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