甘い2度目のおやすみを


「んん…、あれ…?敬人…?」

寝ぼけ眼で時計を見つつ、時間を確認する。
気付けば、もう朝の6時前。
ふと、隣を見るとそこに愛しい人の姿はない。
彼が居たであろう場所を触ると、もう温もりはなかった。
きっと、朝起きるのが早い彼だ、とっくの昔に起きてたんだ。
私は枕元に置いてある彼の形をしたぬいぐるみを寝転んだままの体制で抱き締める。
『恥ずかしいからやめろ』
と本人に言われたこともあるが、今は居ないし大丈夫だ。
ぎゅっと抱きしめ敬人のことを想うと、なんだか胸が温かくて、また睡魔に襲われそうになる。

「敬人、もう出掛けちゃったのかな…。
もうちょっと、一緒に居たいな…」

抱きしめたまま敬人の代わりにぬいぐるみに話しかけてみる。
少し恥ずかしいが、意外と楽しかったりする。
なにより、恥ずかしいことも辛いことも、敬人に言えないような悩みも全部さらけ出すことができる。
…実の彼氏にさらけ出せないのは、好きだからこそ良い部分ばかり見せたいのと、自分の悩みや辛いことを敬人が知ったら、優しい彼は凄く心配してしまう、ということが理由である。

「ねえ、敬人。
私ね、敬人のこと大好きだよ。
厳しいけど、優しいの知ってるし、
お説教だって、お小言だって、愛情表現なのも分かってるし。
何してもかっこいいし、とっても素敵なの。
…あ、でも、もう少し『好き』とか『愛してる』とか言ってくれてもいいのにな。
あと、…やっぱり、もっと敬人と一緒に居たいな………」

ぎゅっと私は力強く、でも優しくぬいぐるみを抱き締める。
ふっ、と寝返りを打つと、思わず目を見開いた。
そこには、居るはずのない敬人本人が居たのだ。

「………まだ寝てるかと思えば……ななし………」

呆れたような怒ったような声音だ。
慌てて体を起こし、布団の上に正座する。

「あああああの、ごめんなさい…!」

間違いなく、恥ずかしい独り言を全部聞いていたのだろう。
呆れられた。絶対変な奴だと思われた。
もしくは、重い女だと思われた。
羞恥心で泣きそうになり、思わず俯いた。
すると、頭が温かくなる。
敬人が私の頭にそっと掌を置いていたのだ。

「何を謝る必要があるんだ?
…今日の起床は6時で問題ないと言ったはずだが」

「えっ…?」

「今日は俺も予定がない。
ななしも今日は休みだろ?」

敬人の問いかけに私は頷いた。
確かに私は今日は休みだ。

「あ…ごめんね、ありがとう。
じゃあ、もう少し寝かせてもらうね」

私がそう言うと、敬人はああ、と短く返事をし、何故か私の布団に入ってくる。

「えっ…突然どうしたの…?」

慌てて私が尋ねると、敬人は溜息をついた。

「ななし、自分がさっき言ったことを覚えていないのか?」

「さっき…?」

「…俺と一緒に居たい、と言っていただろう」

敬人の言葉を聞いた瞬間、顔が熱くなる。
言ったのは覚えているが、そう思っていた相手から復唱されると恥ずかしい。

「いつも、ななしはそういうことは言わないからな。
正直俺が無理矢理付き合わせてしまっているんじゃないかと、心配していたんだ。
俺だけがななしを一方的に好きなんじゃないかと。
…だが、心配無用だったようだな」

私の隣でくすりと敬人は笑った。
今まで見た彼の表情の中で1番優しく柔らかい笑顔だ。
思わずドキリとしてしまう。

「その…俺にも言ってくれないか?
さっき、ぬいぐるみに話しかけてたことを」

「っ…!!
…あ、あの…さっき言ってたこと聞いたらきっと呆れると思うよ?
敬人に嫌われたくないから、正直あまり言いたくはないんだけど…」

「全く…度し難い。
俺がそんな簡単に貴様を嫌いになると思うか?
俺はななしのどんな想いも受け止めたいんだ。
もしくは、俺に嫌なところがあればきちんと言って欲しい。
…寧ろ、言ってくれない方が不安で仕方ない」

私はハッとした。
今まで重い女に見られないようにとしていたが、
その行為が敬人を不安にさせていたのだ。

「……重い女って思われるかもしれないけど、あのね…」

思いの丈をぶつけるようにして、思っていることをすべて吐き出した。
敬人の嫌なところなんて、ひとつもないため、吐き出したのは全部、好きだの何だの、甘ったるい言葉ばかりだ。

「…もういい…分かった、ななしの気持ちはよく分かったから…」

そう言って途中で敬人に遮られる。
顔を真っ赤にして可愛い。
でも、まだきちんと言っていないことがある。

「ねえ、敬人。まだ言ってないことがあるの」

真っ赤な顔を逸らした敬人の顔を自分の方に向け、彼の瞳を見ながら言った。

「これからも、ずっと一緒にいてね?」

そう言ってそっと短く唇を重ねると、
満足そうに、ああ、と短く返事をし、優しく抱き締められた。

「…もうひと眠りするか?」

「いいの?」

「今日くらい構わん。
…たまにはこういうのも悪くないだろう?」

そうだね、と私は答え、温かい彼の体温に包まれながらそっと瞼を閉じた。
起きたら敬人とデートでもしようかな。


甘い2度目のおやすみを

これほど幸せな二度寝は初めてだ


鬼龍先輩ぬいぐるみがお気に入りでよくギューギューしたり話しかけたりしてるんですが、
もしその現場を鬼龍先輩が見たらどう思うだろうか?
という謎の疑問が湧きましてこのお話が出来ました。
ぬいぐるみいいね、可愛い…。

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あからこ

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