はんぶんこ


「好きだよ、ななしちゃん」

毎日、毎日言ってくる。
それが恋人ならまだいい。
でも相手は恋人ではなく、先輩なのだ。

「羽風先輩、もういいです」

いつもなら、笑って誤魔化していたが、今日という日は厄日で、
今の私にとってはただただ煩いだけだった。
口から出た私の言葉は冷たくて、羽風先輩も驚いている。
しかし、羽風先輩は寂しげな表情で

「そっか、ごめんね?」

なんて笑って頭を撫でてくる。
そんな羽風先輩の表情に胸が押し潰されそうになる。
ただの八つ当たり。そんなことはとっくに気付いているのに。

「あの……違」

「いいのいいの、無理に俺なんかに気を使わなくていいよ。さっきみたいにこれからも接してくれていいから」

言葉が突き刺さるようで心が痛んだ。
自業自得だと知ってても、どうしようもなかった。

「え、あの…ごめんね。ななしちゃん、泣かないで」

泣くもんか、と気を張って目を閉じても涙は抑えきれない。
そっと涙を羽風先輩が拭いてくれる。

「…何か、嫌なことでもあった?」

閉じた目を開くと、眉を下げて困ったような表情の羽風先輩がいた。
今までに見たことのない表情をする羽風先輩に私は思わずたじろいだ。

「実は、」

私が今日あったことを話すと、羽風先輩は優しく背中を摩ってくれる。

「そっか、知らなくてごめんね」

「…羽風先輩は悪くないですよ…。
今日散々なんかあったのは全部私が悪いんですから」

私がそう言うと羽風先輩の手が私の頭をポンポンと撫でる。

「そんなことないよ。
話聞いてたけど、ななしちゃんが全部悪いわけじゃないんだから、全部背負い込む必要ないと思うよ。
それに、こういうことあったら俺にいつでも言ってよ」

「でも、そんな…羽風先輩に迷惑じゃないですか…」

「ううん、寧ろななしちゃんが俺を頼ってくれるの嬉しいよ。
それとも『ただの先輩』だから頼りにくいのかな?」

私は『ただの先輩』の意味がわからずキョトンとしてしまう。
すると、再び羽風先輩は口を開いた。

「じゃあさ、ななしちゃんの彼氏になれたらいつでも言ってくれる?」

「…え?」

どうしてそんなことを言うの。
なんで期待させるようなこと言うの。
何故私なの。
頭の中で疑問がグルグル回る。

「……羽風先輩はなんでいつもそんなこと言うんですか?」

私の問いかけに羽風先輩は柔らかい笑みを浮かべて

「だって、ななしちゃんが好きだから」

と答えた。
今までに見せる笑顔とは違ってなんというか、凄く綺麗だった。
上手く言葉に出来ないし、よく分からないけど、きっと羽風先輩は本気なのかもしれない。

「…ずるいです。
そうやって弱みに漬け込むなんて…」

「ごめん、ごめん。
そんなつもりじゃないんだけど、ななしちゃんを放っておけなくて。
なんというか、俺が凄く守りたいと思っただけだから。
返事は『いいよ』って言ってくれるまで、いつまでも待つよ」

ああ、本当にずるい。
そんなの返事なんてすぐにでも出来てしまう。

「…好きですよ、羽風先輩」

「俺もななしちゃんが好きだよ」

ずっと好きだった、
耳元で囁かれた時には羽風先輩のスラリとした腕に閉じ込められていた。


はんぶんこ

悲しみも幸せも


初の羽風先輩。
羽風先輩に本気の恋をしていただきたいし、報われてほしい。
硬派大好きな私の小さな願い。

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あからこ

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