ピラニアの海から


『人の噂も75日』

そんなことわざを聞いたことがある。
75日経てば皆から忘れられる。
75日なんて長過ぎるのに、現実じゃ下手すりゃそれより長く覚えられることもある。
だから、噂話は嫌いだ。
いい噂ならまだしも、噂話なんてほぼ悪口だったりする。
それに尾ひれがついて、知らない間に小さな噂話は大きな噂話になっていく。
まるで、魚のようだ。

「…あ、噂をすればなんとやら、ななしだ」

「しっ!バカ、聞こえるぞ!」

私は先日ライブの裏方での仕事で大失態を犯した。
特に誰かに迷惑をかけた訳ではない。
ただただ、自業自得の失敗だった。
だからこそ、皆面白がって話題にするのだ。
正直学校に来たくない。
ある意味社会的に食い殺されそうな状況だ。
まるで肉食のピラニアに襲われているかのようだ。

「こんにちは、ななしさん…♪
げんきがなさそうですね?」

私に話しかけてきたのは奏汰君だった。

「あ…うん、ちょっと…ね」

私が失敗して噂をたてられようとも、奏汰君はこうして前と変わらずに接してくれる。
それだけで嬉しいし、泣きそうになる。

「いいこ…いいこ…♪
ななしさん、つらかったら、ないてもいいんですよ…?
ぼくはななしさんがわらってくれるなら、それでいいんです…♪」

彼の言葉によって涙腺が崩壊した。
ただただ、ひたすらに泣きじゃくった。
その間も奏汰君はずっと「よしよし…♪」と言いながら私の頭を撫でてくれる。
ふわふわした奏汰君の声音はとても気持ちいい。

「奏汰君、あのね…私失敗しちゃったの……
それで、そのことが学院中に知れ渡って、
今じゃ噂がひとり歩きしてるの…」

「じつは、ぼくもききました…
でも、ななしさんは、わるくありませんよ…♪
『しっぱい』はだれにでもありますよ…♪」

私を咎めることなく、甘やかしてくれる。
とても優しい男の子だな、と実感した。

「なんだか、噂話って魚……ピラニアみたいだよね」

さっき私が思ったことを言うと、奏汰君はきょとんとした。
尾ひれがあって、段々と大きくなって、噂の本人に噛み付き、ボロボロにしていく。
そんなことを再び考えると奏汰君は寂しそうに笑って

「ななしさんは、おさかなさんが『きらい』ですか?」

と聞いてきた。
そういうつもりじゃないため、私は慌てて横に首を振った。
すると、奏汰君は嬉しそうな表情をした。

「ななしさんも、おさかなさんが『すき』なんですね…♪
よかったら、つぎのおやすみのひ、いっしょに『すいぞくかん』へいきませんか?」

きっと、奏汰君なりの気遣いなのだろう。
本当に優しいなあ。
私が思い切り頷けば、やくそくですよ、と小指を差し出される。
私はその小指に自分の小指を絡めた。


ピラニアの海から

救い出してくれたのは貴方でした


私の私生活が職場の人間にバレてしまい(主に部屋が汚いこととか)、
これ絶対職場に広まるわ…鬱だ…
と、なったとき、噂話ってピラニアみたいだな、とか思いました。
私の思考が意味不明過ぎて理解できない方が大半かもしれません。
ごめんなさい。

そして、ピラニアは多分川な気がするけど、タイトルは海になってますが、わざとですので!!!敢えて言っておきます!

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あからこ

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