優しい瞳で見つめて


誰もいない放課後の空き教室。
私は静かにその時を待っている。
ドクドクと煩く高鳴る鼓動は静かな部屋に居るためか尚更煩い。
一度大きく深呼吸をし、もう一度練習したことをおさらいする。

「ずっと前から好きでした」

本人が居ないのに既に顔が熱い。
恋愛に疎い幼馴染みの彼はきっと私の想いには気付いていないだろう。
長年続けた片想い。
もう1人の幼馴染みからは

「ななしちゃんなら大丈夫、敬人とお似合いだと僕は思っているから」

と背中を押してくれた。
きっと、これ以上うかうかしていると、他の女の子に取られてしまう。
さあ、今日は勇気を出して

────ガラッ

「ななし」

「っ…!!」

戸に背を向けていた私は思わずビクリとしてしまう。
ああ、この時がきた。やるしかない。
この想いからも、告白からも逃げちゃダメなんだ。
でも、正直私としては玉砕覚悟の告白だと思っている。
何故なら

「なんだ、用事とは。
貴様のくだらん話に時間を裂きたくはない。
さっさと手短に話せ」

「……くだらん話とか勝手に決めつけないでよ。
そういう先入観を持って決めつけられるの本当に嫌なんだけど、いい加減やめてくれる?」

ああ、またやってしまった。
いつもこう。本当は素直になりたいのに、喧嘩腰で話してしまう。
本当は、本当は…好きなのに。

「その返答がくだらんというのすら分からんのか。
…もういい、俺は生徒会の仕事が残っているんだ。今度にしろ」

「……待って!!」

一瞬今度にしようかと思った。でも、今逃げたらきっとその今度はもう二度と来ないかもしれない。
私に背を向けた敬人は再び私の方を見る。

「…なんだ」

「わ、私…その、敬人が……………す────」

「はぁ…長い。本題に切り出すまでが長すぎる。
やはりまた別の機会にしろ。
俺は忙しい」

たった2、3秒の沈黙が敬人には長く感じたらしい。
再び私に背を向けドアの方へと歩き出す。

───プツン

私の中で何かが切れた音がした。
それと同時に私の足は彼の方へと歩み始める。

「そんなに生徒会が大事?」

「当たり前だ」

敬人は私を見ることすらしない。
そんな敬人の態度に尚更腹が立った。

「あのさ…話する時は人の顔を見ろ、って昔聞かなかったの?
というか、私昔から言ってたよね?」

唐突に敬人の腕を引っ張る。
小さく「うわっ」と声を漏らした敬人はバランスを崩しよろけた。
私の足に敬人の足が当たった、と感じた時には既に私の視界には敬人と天井がうつっていた。

「っ…!!」

所謂床ドンというやつだろう。恥ずかしさから私はぎゅっと目を閉じた。
他者から見ると、敬人が私を押し倒しているようにも見られてしまう。
恥ずかしいのに身体が動かない。
普通なら胸を押し返せばこの状態から抜けられるだろう。
しかし、一向に敬人は動く気配がない。
そっと目を開けると顔を真っ赤にした敬人が見えた。

「…っ、あ、いや…その…」

しどろもどろに喋る敬人なんて初めて見た。
そんな敬人が新鮮で私の羞恥心は消え去ってしまった。
今度は敬人が羞恥心でいっぱいいっぱいみたいで、慌てて私から飛び退いた。

「す、すまん……そんなことをする気はなくて、だな。
いや、したくない訳じゃないが…って、いや、ほら…あれだ、違う」

「…敬人、落ち着いて?」

自分よりも落ち着いてない人を見ると逆に自分は冷静になる。

「深呼吸して落ち着いてから喋りなよ」

と言うと敬人は一度大きく深呼吸をした。

「…っ、本当はその…貴様に……ななしに、
呼び出された時はくだらん話かと思ったが、
あれは…俺の自惚れで無ければ…俺に告白するため…だろう?」

私の今の顔は敬人みたく真っ赤だろう。
勇気を出して頷いた。

「…情けない話だが、俺は告白だろうと思いながらも逃げようとしたんだ。
…俺は、こういうことに不慣れで、
その…恋愛自体が俺にとっては初めてで、
その相手がななし…なんだ…」

「…えっ?」

敬人の言葉に唖然とする。
気づいた時には私の頬に彼の温かい掌に覆われていた。

「だから、俺から言わせろ。
…好きだ、ななし」

優しい笑みで、私にそう告げる。
もう限界だった。
目からボロボロと涙が零れる。

「わ、私も…敬人が……ずっと好きでした……」

そう言うと、そっと敬人に抱き締められた。
とめどなく溢れる涙は敬人の制服に染み込んでいく。

「やっと、お互い素直になれたな」

上から優しい声が降ってくる。
そんな声とは正反対にまるで告白する直前の私のように彼の鼓動は忙しく脈打つ。

「敬人の心臓の音、聞こえる。
凄く、鼓動が速いね」

すると、敬人はぴたりと私の首筋に手を当てる。
敬人はフッと笑った。

「ななしも速いがな」

「敬人のお陰で…」

「…っ、可愛いことを…」

そう言って唇を塞がれた。


優しい瞳で見つめて

これからもずっと。


ケンカップルが書きたくて書きたくて。
ケンカップルがイチャコラするの好き。
両片想いとか最高。
貴様ら早く結婚しろ、ってなります。
タイトル決めるのに1時間くらいかかった…ヒエェ

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あからこ

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