プロデューサーとアイドルと使用人


「本日は宜しくお願い致します、ななしさん」

「こちらこそ、宜しくお願い致します。
1日限定姫宮家の使用人として働かせて頂けるとは思ってもいませんでしたよ」

私がそう言うと弓弦君は笑って苦笑した。

「私の方こそ、ななしさんが使用人として働きに来て下さるとは思いませんでした。
プロデューサーの仕事だけでも大変ですのに、
私の仕事までお手伝い頂いてすみません。
では、早速ですがお仕事に取り掛かって頂いても宜しいでしょうか?」

すっと、彼から渡されたのは本日のスケジュールリストだ。
みっちり字が詰められてあるその紙を見ると不安になった。

「大丈夫ですよ、ななしさんは出来るお方ですから」

ニッコリと綺麗に微笑む弓弦君を見ると期待を裏切ってはいけない、と意気込んだ。
その為か、仕事は思っていたよりもスムーズに進み、
最後のお仕事になった。
最後は庭の花の水やりだ。
ジョウロに水を汲み、根元にそっと水をかけながら今日のことを思い出す。
なんというか、簡潔に言えば充実した1日だった。
初めてするようなこともあったが、弓弦君が何度か手助けしてくれたために成し遂げられた。
ありがとう、とお礼を言う度に

「私は何もしていませんよ、ななしさんが出来るお方だからですよ」

と決まって返される。
明らかに弓弦君の方が出来る人だと思う。
でも、褒められたのはとても嬉しかった。

「流石ですね、ななしさん」

突然、背後から声がする。
驚いて後ろを向くと傍にあった木の下に、弓弦君が立っていた。

「えへへ、ありがとうございます。
でも弓弦君のお陰ですよ」

私がそう言うと、彼は柔らかい笑みを浮かべた。

「何を仰いますか、ななしさんのスキルが高いのですよ」

相変わらず弓弦君の微笑みは美しく、見とれてしまう。
なんというか、こう…胸を締め付けられる。
苦しくなるものの、まだ見ていたいという矛盾が生じるのだ。

「どうかされました?」

「え、いや…あの」

見とれていました、なんて恥ずかしくて言えない。
なんと言って誤魔化そうか、と考えていると

────バキッ

上の方で嫌な音がした。

「危ない…っ!!」

咄嗟に弓弦君にしがみつき、押し倒してしまった。

───ドシャッ

私の背後では何か落ちる音がした。
振り返ると大きな木の枝が落ちている。
これが当たっていたら無傷ではいられなかっただろう。
避けれて良かった、何より弓弦君が無事で良かった。
自分の心配よりも、弓弦君を心配している自分の心に違和感を感じながら、弓弦君の上から退いた。

「…っ、ななしさん…お怪我は…?」

珍しく弓弦君が涙目になっている。
初めてこんな表情の弓弦君を見た。

「私は大丈夫ですよ、それより弓弦君こそお怪我は?」

「…ございません。
ななしさん…どうして、そのような危ないことをなさるのですか?」

キッと弓弦君は私を若干睨みつける。
危ないことの意味が分からない。

「…分かっていらっしゃらないようですね。
私でも避けることは出来ますし、
ななしさんを庇うことが出来た筈です。
ですから、私なんか庇わなくても───」

「だって、弓弦君はアイドルですもの。
顔に傷をつけてしまっても、身体を怪我してもダメでしょう?
それなら、プロデューサーの私が庇った方がいいじゃないですか。
それに私は弓弦君が傷つくところ見たくないんです」

私がそう言うと弓弦君は上半身を起こし、
気付けば彼の腕の中にいた。

「はぁ…本当に貴女という方は…。
ななしさんは、プロデューサーである前に女性ですよ。
女性こそ顔に傷付けてしまってはいけませんよ。
それに、私だってななしさんが傷つくところ見たくありません。
…ですが、ななしさんが無事で本当に良かった……」

私を包み込む腕にキュッと力が入る。

「先程は少し口調が強くなって申し訳ございません。
ですが、それだけななしさんになにかあったら、と考えると不安になるのです。
取り乱して申し訳ございませんでした」

丁寧な口調だが声音は弱々しく少し頼りなさげだ。

「こちらこそ、ごめんなさい。
そこまでお気遣い頂いて…」

「私が好きで気遣って…、ななしさんが好きだからそれほどまでに心配してしまうのですよ」

え?
思わず目をぱちくりする。

「…失礼致しました。
自分勝手なことを申し上げましたことお許しください。
先ほどのことはお忘れ頂ければ────」

「ごめんなさい、忘れられませんよ」

ああ、そうなんだ。
何となく胸を締め付けられる違和感はきっとあれだ。
恋というやつだ。
弓弦君が傷つくところを見たくないのも、
胸が締め付けられるのも、
ただ単に彼がアイドルだからではなくて、
好きな人だからだ。

「私も弓弦君が好きですよ」

そう言うと彼はあの綺麗な笑みを浮かべて、
私のおでこにキスを落とした。


プロデューサーとアイドルと使用人


前からネタ帳に入れてたシチュエーション。
男の子を庇って
「プロデューサーよりもアイドルが傷付けちゃダメでしょ?」
からの、
「プロデューサーの前に君は女の子でしょ?」
的なのを考えてた。
でも文字にすると難しかった。
弓弦君こんなんじゃないかもしれない。
ごめん、弓弦君。
とりあえずタイトル思いつかないから
肩書きなんて関係ないぜ!
みたいなノリでつけました。

[前] | [次]
もどる

あからこ

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -